コロナ危機の背後で暴走する日銀
横浜アクションリサーチ 金子 文夫
4月8日の「緊急事態宣言」と同時に打ち出された緊急経済対策は、総額108兆円、GDPの20%、「世界的にも最大級」と規模の大きさが強調された。その後総額は117兆円に修正され、そのなかの一般会計部分25.7兆円は2020年度補正予算として4月30日に国会を通過した。
コロナによる経済悪化に対応するには、世界各国とも財政政策と金融政策を総動員せざるをえない。日本の場合、すでに財政は危機的状態なので、緊急経済対策のための国債発行も結局日銀引受になり、日銀は政府支援と民間支援の二重の活躍をすることになる。
露骨な「財政ファイナンス」
コロナ対策の日銀金融政策は、3月15~16日の金融政策決定会合で打ち出された。この会合自体、当初の18~19日の予定を、FRBの理事会会合に合わせて前倒しするという異例の開催だった。そこでの決定は、量的緩和策として、①国債買入れ(年間80兆円)、米ドル資金の潤沢な供給(貸出金利0.25%引下げ)、②「新型コロナ対応企業金融支援特別オペ」の導入(民間企業債務を担保にゼロ金利資金8兆円を金融機関に供給)、③CP・社債購入枠を2兆円拡充(CP3.2兆円、社債4.2兆円まで)、④ETFを年間12兆円、J-REITを年間1800億円まで購入とし、金利政策は従来の短期マイナス0.1%、長期ゼロ%の方針を維持した。全体として量的緩和をさらに進めるとともに、特にコロナ対策として、主に中小企業支援を意図して②を導入したことが目新しい。
これに続いて4月27日、緊急経済対策の補正予算の国会通過を目前にして、日銀は金融政策決定会合を開き、さらなる金融緩和策を決定した。要点は、①国債の無制限購入、②社債・CP購入枠を3倍に拡、③新型コロナ対応資金のゼロ金利供給オペの拡充である。①国債に関しては、従来年間80兆円を掲げつつも、実際は10兆円台まで減額してきたところ、今回は無制限購入へと一気に舵を切った。これは国債を低金利で発行させるための財政への援護射撃であって、いよいよ「財政ファイナンス」の姿が露骨に現れることになった。
②では、CP・社債の買入れ上限を20兆円まで一挙に拡大するだけでなく、1発行体の発行残高に占める日銀保有割合の上限をCP50%、社債30%に引上げており、日銀が民間企業のメインバンクになった形だ。③は3月に新設された方式の拡充であって、担保を8兆円から23兆円に増額、利用残高に相当する当座預金へのプラス0.1%付利など、大盤振る舞いといえる。日銀の民間企業支援枠は総額55兆円あまりと巨額に達する。
日銀の異次元の金融緩和政策は、日本の財政・金融システムを大きく歪めてきている。日本政府の国債発行残高は、2010年度末に884兆円であり、その時点ですでにGDPの2倍に近い不健全なものだったが、それでも国債発行残高に対する日銀の保有割合は8.9%にとどまっていた。その後、アベノミクスのなかで、国債発行残高は2019年12月末に1132兆円まで増加した。それに対する日銀の保有割合は43.7%に膨らんだ(朝日新聞2020年4月28日)。その間の国債残高増加額は248兆円、日銀保有の増加額は416兆円であって、銀行等が保有する国債を日銀が買い上げ、政府の低金利の国債発行を支援したわけである。財政法では、財政膨張に歯止めをかける意味で日銀が政府から直接に国債を購入することを禁じているが、もはや歯止めはなくなり、財政法は空洞化したというしかない。
日銀の異様な信用膨張
さらに日銀がETF(上場投資信託)の大量購入を続けていることも問題である。日銀のETF購入はリーマンショック後の2010年12月が最初で、年間4500億円が上限だった。それが2013年4月1兆円、14年10月3兆円、16年7月6兆円に増額され、2020年3月に12兆円に達した。日銀のETF買いは、株価下落にブレーキをかける役割を果たし、株式市場の価格形成に歪みをもたらした。加えて、日経平均が1万9500円以下に下がると、日銀の保有株式に含み損が発生し、日銀の財務構造を悪化させ、円の信用を棄損する。財政危機と日銀の信用危機が重なれば、円の暴落を引き起こしかねない。
リーマンショック後の世界的な金融緩和政策が続き、FRBとECBは正常化に転じるなか、日銀は緩和策を継続してきたところ、コロナショックによって、主要中央銀行はすべて大幅な金融緩和に進んでいる。なかでも日銀の異様な信用膨張は突出している。いずれ行き詰まりが訪れるとして、その際のショックは一段と激しいものとなるだろう。コロナ危機の背後でこうした危険な事態が進行していることを見逃してはなるまい。(詳しくは、横浜アクションリサーチのサイトwww.y-ar.org/を参照してください。)