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2017/05/13

POLITICAL ECONOMY 第91号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
思惑絡むTPPイレブン

                           NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田芳年 
                                                  
 トランプ米大統領は1月20日正午の就任式からわずか3日後に、環太平洋経済連携協定(TPP)から「永久に離脱する」とした大統領令に署名、離脱を通知する書簡を日本を含む参加11カ国に送付した。大統領選過程で主張してきた公約を即座に実行して見せたわけだ。この結果、参加関係国が2010年3月から延々と5年半に渡って交渉を続けてきた広域的な多国間通商協定は「死に体」となり、「(TPPは)過去のもの」(ペンス米副大統領)との理解が広がっている。

 ところが昨年末から水面下で米国を除くTPP参加11カ国による経済連携協定のスタート(TPPイレブン)を模索する動きが始まっている。それが表面化したきっかけは、米の離脱声明直後にチリ政府が3月中旬開催予定の中南米4カ国の経済統合を目指す関係閣僚会議に合わせ、TPP閣僚会合も開きたいと参加国に伝えてきたこと。日本政府は米国の離脱当初、「TPPの戦略的意義について腰を据えて理解を求める」(安倍首相)との立場を強調、「経済が最大規模のアメリカが入ることが重要だ。粘り強く意義を訴えかける」(世耕経済産業大臣)としていたが、時間が経つに連れてトランプ大統領の離脱決定を翻すことは無理との判断が支配的となり、別の選択肢の検討に入っていた。

 この流れを加速したのが自由貿易の重要性や保護主義への懸念を強調したチリ会合の共同声明とカナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランドの積極発言。同会合後に日本経済新聞の取材(4月19日)に応じたスティーブン・チオボー豪貿易・観光・投資相は「TPPイレブンはよい。他の国々も同様の見解だ。より大事なのは潜在的な合意につながるような選択肢を11カ国が検討することだ」と言明。麻生副総理兼財務相は「11カ国でTPPをやろうという話しは5月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で出る」(4月20日)と前向きな姿勢を示す。

米国抜きは可能か

 ところでアメリカ抜きのTPPがそう簡単に実現するのか?TPP協定第30章「最終規定」によると、参加国が議会承認などの国内手続きを済ませれば60日後に発効する。手続きが進まない場合、署名日から2年経過した後で、TPP域内GDPの85%以上を占める6カ国以上が手続きを済ませれば60日後に発効することになっている。ただ米国は域内GDPの約60%を占めており、離脱となれば発効の規定をクリアできないことになる。これが「死に体」表現の基になっている。

 しかしどんな国際協定・条約でも関係国が一致して条文改正に合意すれば、規定の変更は可能だ。従って、離脱国を除く11カ国がTPP発効に必要な手順と規定の改正を行えば「TPPイレブン」のスタートは2018年5月以降、可能となる。問題はこうした手続き面ではなく、PP交渉スタート時から最大の牽引力となってきた米国の不参加を参加各国がどう受け止めるかだ。
 GDP世界ナンバーワンの広大な米国市場にアクセス出来ることが大きなメリットと考えて国有企業規制や電子商取引、金融サービス、知的財産などで厳しい要求を受け入れることにしたベトナムやマレーシアなどの途上国が米国抜きのTPP存続に魅力を感じるのか。農業問題を抱えながらも日米関係を最重視して参加を決断した日本政府はどうか。米国と足並みを揃えるため国内産業保護策との調整に合意したカナダ、ニュージーランド、豪州はどうか。米国というまとめ役を欠いた状態で再交渉となれば、発効までの道のりは再び相当な時間がかかり、難しいとの指摘がある。

 一方でトランプ政権は「米国ファースト」を謳い文句に、多国間協定から二国間・地域のFTA(自由貿易協定)路線に舵を切った。貿易赤字の削減、より公正で相互主義的アプローチを強調しており、中国、日本、EU、NAFTA(北米自由貿易協定)参加国との個別交渉で市場開放、関税引き下げ、相互主義を突きつけてくることは必至で、日本にとってTPP交渉以上に厳しい要求に直面することが予想される。

中国を意識する安倍首相

 日本政府が「TPPイレブン」に親和的姿勢を見せ始めたのは、こうしたトランプ政権の攻勢を牽制するためとの見方があるが、どうもそうした交渉技術的側面だけではなさそうだ。2015年11月に最終合意したTPP協定は本文30章、約600ページに上り、関税撤廃のスケジュールや自由化の例外項目などを盛り込んだ「付属文書」などを含めると全体で1500ページを超え、高水準・広範囲の貿易・投資ルールが盛り込まれ、「21世紀の通商協定モデル」が目指されてきた。

 競合する国際市場で中国の覇権的台頭を抑止したい安倍政権にとって、中国にはハードルが高い通商協定モデルを「お蔵入り」させるわけにはいかないという意志が働いたとしても不思議ではない。米国の離脱で参加国最大の経済規模を持つ日本が積極推進の立場に転ずるかどうか、「TPPイレブン」の今後の帰趨に目が離せない。


17:17

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第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

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