介護を貶めるのは誰
まちかどウォッチャー 金田麗子
「無表情な若い男の子に、母が転がされているのよ。もっと親身な態度の職員に世話してほしいわ」
老人施設に入っているお母さんを見舞った友人には、若い男性職員による体位交換が、お母さんを転がしているように見えたという。「あの若い職員には、もっとふさわしい居場所があるんじゃない?」友人は適正な職業選択がなされていないと言いたいようだった。
先日総務省が発表した2015年国勢調査に基づく労働集計によると、15歳以上の産業別働き先は、「医療・福祉」が702万4000人。増加率が最も高かったことがわかった。厚生労働省2013年10月の「福祉分野の雇用動向」でも、医療・福祉の雇用は2003年から12年までに207万人増加している。このうち福祉分野(社会保険・社会福祉・介護事業)で145万人増加し、産業別小分類では、「老人福祉・介護事業」(訪問介護を含む)が58.7%を占めている。
有効求人倍率(2017年3月)も、全産業1.45に対し2.56と高水準である。雇用が増えると、福祉介護業務に関心のない人が流入している可能性もあるだろう。
しかし友人の真意はそれだけでなかった。「介護は家事の延長で、若者が志すような将来性のある仕事ではない」、「介護は他人の世話をしたい。役に立ちたいという崇高な志が必要」と、介護職に対し、相反する価値観を持っていた。
実は「介護人材の現状」は(厚生労働省2013年)にも、介護は「社会的意義のある仕事」と、「夜勤などありきつい仕事」「給与水準が低い」という評価が表れていた。女性の比率が高く、中途採用率が高く、勤続年数は5.5年(全産業平均11.9年)と短く、賃金も全産業平均32万4000円に対し、福祉施設介護職21万8000円と、勤続年数が短いこともあるが約10万円低いとある。
女性の比率が高く、「女が家でただでやっていた仕事」と見られている仕事は、介護職だけでなく保育職も賃金が低く社会的評価も低い傾向がある。
ちなみに私は、知的障害者のグループホームの世話人として働いているが、世話人とは、まさに「世話する人」というネーミングでスタートしたと、「障害者グループホームと世話人」(宮本秀樹 生活書院2016年)に紹介されている。「地域のおばさん」的な存在を求めたという。どんぴしゃりである。
介護職は「夜勤がきつい」
介護職は慢性的な人手不足で、2025年にむけて全国で35万人不足していると言われている。その割には、仕事に対する社会的評価の低さ、待遇の低さと無関心はひどい。
なぜか厚生労働省の調査には、「夜勤など仕事がきつい」というマイナスイメージがあると記載されているだけで、夜勤の実態が出てこない。日本医労連「介護福祉夜勤実態調査」(2015年)によると、2交替勤務(勤務時間12時間、休憩1時間)の施設が88.1%と9割近い。勤務時間は2交替の64.8%が16時間以上である。夜勤回数は月5回以上7回未満が全体の46.7%と約半数占めている。
これがグループホームなど小規模多機能型居室介護になると、すべて2交替勤務で、しかも夜間一人体制、いわゆるワンオペが常態化している。イメージが悪いのではなく、「夜勤がきつい」事実があるのだ。働く側がきついということは、施設の利用者にとっても不幸でしかない。
職場として、職業として成立するための労働条件が保障され、社会的に評価される職業になる。介護を受けること、介護を仕事にすることを、不当に低く貶めているのは誰か。根っこはひとつだろう。