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2017/06/08

POLITICAL ECONOMY 第93号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
グローバル化をめぐる頭の体操
                                経済アナリスト 柏木 勉

 イギリスのEU離脱、トランプの勝利、フランスのマクロンは勝ったが少数の得票を得ただけ。来るドイツの選挙ではどうなるか、またイタリア選挙ではユーロ離脱を主張する五つ星運動が優位。いまやグローバル化にストップがかかり、自国中心の保護主義への逆流がはじまったかに見えるが、はたしてどうか。今回はこのような状況を見たうえで私見を2、3点述べさせていただき、皆さんの頭の体操の参考に供したい。

 そこで、まず押さえておくべきは、これまでのグローバル化に便乗した議論は、「資本が政治的国家の枠をいまや容易に乗り越える時代が到来した」というがごとき安易なものだったということである。多国籍企業が無国籍企業であるかのように論じられ、もともと大きな錯覚でしかなかった。それが明々白々になったのである。

資本主義は国民国家と共に生まれた

 元来、資本主義は国民国家の誕生とともに生まれてきたものだ。資本の論理そのものを取り出せば純粋資本主義になり、そこでは国家の出番はない。だが、現実の資本は国家という政治的枠組みのなかで動いている。それが国民経済を成立させたのである。確かに各国間の貿易が増大し資本移動も簡単になって世界市場が急拡大してきた。しかし、それはあくまで諸々の国民国家の対立と協調という政治的枠内で可能になったのである。

 早い話が、国家権力による国家の意思としての通商条約なしには、グローバル化もなにもあったものではない。多国籍企業が世界展開しても、それは海外現地国の法のもとで活動する。例えば米国政府と米多国籍企業が圧力をかけて他国の法を改正させても、その交渉はあくまでも米国政府と当該国の国家意思として法改正が行われる。資本は自らの国家を頭にいただくかバックにいてもらわなければ、世界的企業活動は出来ないのだ。多国間の経済連携協定についても同じだ。

 グロ—バル化の結果として大きな問題になっている所得格差についていえば、新自由主義の柱は「自由」であった。だが、この「自由」というものは本来的に「平等」を内に含んでいる。競争による「自由」な経済活動は放置しておけば、少数の個人や組織に富が集中して、多数の不自由を招く。そこで国家が出てきて、富を抱え込む少数者に様々な制約を課す。つまり国家の再分配による「平等」が前に出てくる。海外からの国内生産への回帰促進、雇用重視を声高に叫ぶトランプの主張はこの理屈に沿ったものだ。資本の論理と国家の論理は同じではない。

ナショナリズムの役割

 以上は国民国家からなる現在の世界ではこうなると説明しただけで、むろん筆者はこの現状を望ましいとは考えていない。筆者は国民国家を消滅させるべきと考えている。国民国家の成立は全国民による戦争を可能にして、2度の世界大戦をはじめとした国家間戦争は膨大な死者を生み出すことになった。国民や国家という幻想に命を捧げることになったのである。この幻想を支えているのがナショナリズムである。経済的対立の激化が戦争を生むのであるが、自らの国家を支える観念・イデオロギーなしに、単に経済的利害損得だけでは戦争はできない。その観念が国民国家を成立させたナショナリズムである。

 だからナショナリズムを無化しフェイドアウトさせなくてはならない。そのためには、ナショナリズムや国民国家はたかだか200年前くらいにつくられたものでしかないこと、それを認識し相対化することが必要だ。それ以前にはフランス人もドイツ人もイギリス人も米国人も日本人も中国人も存在しなかったのだ。古代の昔から○○人は存在したなどというのは、国民国家成立時につくられた虚構でしかない。

 もう一点、前述のようにグローバル化に対して国民国家が抵抗するのであるが、それでも長期、趨勢的にはグローバル化は進むだろう。先進国では情報化、サービス化が進んで製造業が衰退し、新興国、途上国での製造業の発展という産業構造の変化は必然的な流れであり、一時的にストップがかかっても止められない。中国、インドの製造業就業者だけ見ても、1990年代初頭から2010年代半ばまでで少なくとも8千万人以上増えた。日米の減少分は約1千万人、EU主要国の減少分は1千万には届かない。世界経済全体では新興国、途上国の製造業の比率は大幅に上昇した。

 情報やサービスは食べられないし着ることもできない。このため先進国は農産物や製造業製品を輸入するしかない。人、モノ、カネが迅速に動くグローバル化で世界経済は回っていき、各国経済も回っていくわけだ。先進国の国民は生活上での必須品目が大量輸入され、その必要性を従来以上に意識せざるを得ない。そうなると、国民国家とナショナリズムの無化は促進されていくだろう。特にITの発展で各国間の(中国等独裁国家に対しても)情報の流れは止められないから、マルクスがドイツイデオロギーで述べた「世界交通」と「他の諸民族に依存しあう——普遍的な諸個人」が実現する可能性は高まっているのではないか。

分化する国民国家

 そう考えると、奇妙に感じるかもしれないが、現在の国民国家が地域的に分化・分裂していくのではなかろうか?スコットランドや北アイルランド、ベルギーの南部・北部対立、スペインのカタルーニャ等々、また実際に分離・分裂した旧ユーゴスラビア各国、チェコとスロバキア、ジョージア、アゼルバイジャン等旧ソ連諸国、中国についてはご承知のとおり。これらの中には外部勢力の介入もあって現在も紛争状態にある国も多いが、いずれも小国である。分離独立をめざす地域もそれを果たしても小国である。しかしグローバル化は小国の自足自給の必要性をぐんと下げる。実際うまくやっている国は多いのである。

 そうだとすると、いきなり飛躍するが、社会主義社会を形成するアソシエーション(せいぜい4、5万人?)の連合も実現性が見えてくることになるのでは?

 最後は脱線気味になったが、結構真面目に考えたい。

12:07

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第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


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第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
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