空しい!格差の合理・不合理
まちかどウオッチャー 金田麗子
今年の夏、私は日本郵便の「時間給契約社員」に転職し、週5日夕方から4時間、郵便の仕分けの仕事をはじめた。
入職して驚いたことは、郵便の職場は機械化が進んでいると思いきや、人間の手によるアナログな仕事の連続で、24時間体制の眠らない現場であった。そのため、人手はいくらあっても足りない。人員の定着も悪く、いつも求人を出しているが欠員は埋まらない。
正社員も夜勤日勤など変則勤務を行っているが、私の現場では正社員は責任者として一人配置されているだけで、大勢の非正規「時間給契約社員」が支えている。3時間、4時間の勤務形態もあれば、17時半から翌朝8時までの勤務形態もある。年齢は私の職場では30代から40代前後が中心のようだが、私のような60歳代もいる。
総務省労働力調査によると、2016年は非正規労働者2023万人のうち、65歳以上は301万人で全体の14.9%を占める。55~64歳は415万人、20.5%を加えると、中高年化の傾向が一気に進んでいることがわかる。一方45~54歳が400万人19.8%、35~44歳が386万人19.1%とすぐ下の世代も迫ってきていて、将来この世代の比率はそのまま高齢化する可能性が高く、まさに私の職場はこの縮図だ。
日本郵便判決は大きな一歩だが
そうした中、9月14日、日本郵便の配達業務の契約社員12人が、正社員との格差解消を求めた訴訟で、東京地裁は一部の格差を「不合理」とする判決を出した。非正社員と同様な業務態様の正社員との比較から、待遇格差の合理性を判断した点が、従来の判決との画期的な違いと評価されている。
具体的には、年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇、病気休暇などが認められた。もちろん賃金をはじめ大きな格差は厳然と残っている。しかし大きな一歩を勝ち取ったことは確かだろう。
日本郵政4グループで、全国約20万人の正社員に対し19万人の非正規労働者がいると言われている。「週刊東洋経済」によると、全国の大企業で3番目に非正規労働者が多い職場であるという。転職したばかりで私はよりリアルに判決を受け止めた。
政府は働き方改革の一環として、「同一労働同一賃金ガイドライン」案を示し、法整備を行おうとしている。その影響も判決には反映されたと言えるだろうが、その背景は次のコメントに如実に表れているだろう。
「かつての非正規は主婦がパートタイムで働くモデルが多かった。正社員の夫が生活を支えているからパートの賃金が低くても貧困問題にならず、社会も問題視しなかった」それが「母子世帯、家計を支える世帯主も家族も非正規というケースが増えている」「正社員と非正規労働者の賃金格差が国際的にみてあまりにも大きい」これらは政府の「一億総活躍国民会議」の委員である樋口美雄氏が、朝日新聞に答えた発言である。
総務省労働力調査によると、2017年7~9月は正職員3435万人に対し、非正規労働者は2050万人、全雇用者の37.4%を占めている。しかし賃金は、2015年OECD報告、パートタイマーの賃金格差によると、日本は正社員の46%と先進諸国の中でも格段に低い。他国は60~90%!だから、国際的にも不平等の源だ。
あいまいな「不合理な格差」
パート法や労働契約法で正社員との不合理な格差を禁じていても、実態は伴わず訴訟等でも労働側にプラスの判断は出ていなかった。「不合理な格差」とは何かがあいまいで、仕事態様、責任、配転の有無、企業側の期待値など違いばかりが強調される。
しかし正社員との「不合理な格差」の境界ばかり議論しても、いたちごっこともいえる。
国内大手自動車メーカーが期間従業員の契約ルールを一方的に変更していたことが明らかになった。労働契約法に基づいて、同じ会社で通算5年を超えて雇用された場合、無期雇用に転換できる制度を回避するため、契約終了後再雇用までの空白期間を従来の1か月、3か月から6か月に変更するという脱法的ルール変更を各社が行っていたのだ。
今度は「合理的格差」が認められる雇用形態を、企業側が求める可能性は大きい。雇用形態が変化しても、原則的にどのようなベースを整えるのかの議論に移行する必要がある。