少しずつ金利の変動幅を広げていった方が良い
リコー経済社会研究所所長 神津 多可思氏
2018年1月20日に開かれた第27回研究会は、リコー経済社会研究所所長神津多可思氏に「異次元緩和の出口戦略を考える」と題して話していただいた。黒田日銀総裁によって進められてきた「異次元緩和」が行き詰まりをみせ、出口戦略を含め金融政策の転換が議論となっていることもあり、多くの質問・意見が出て熱気高まる討論が行われた。神津氏は、日本経済の不振と物価が下がり続けるデフレを一括りにして、2%のインフレにすればよいとした異次元緩和にはムリがあったこと、正常化の過程で一気に金利が上昇する可能性があるので、ゆっくり金利が上がるようにすることが必要と述べた。神津氏の講演は、長年日銀の政策担当者として白川総裁までの総裁を支えてきたこともあり、日銀の金融政策としてどうするのか、日銀はどうあるべきなのかを意識して論じていたことが印象的であった。
経済の不振とデフレを一括りにしたことの誤り
バブル経済崩壊後、金融機関の不良債権処理に2005、6年ころまでかかっている。ちょうどその時期は、中国が台頭しグローバル経済の環境は大きく変わり、国内も少子高齢化が進み出し産業構造の変化が起こっていたのだが、金融機関が不良債権処理に追われたこともあり、新しい産業への転換が十分進まなかった。
こうした中でマイルドなデフレは続いていたのだが、確かにマイルドなデフレが続くと経済は落ち込
むことは事実。そこでマイルドなデフレをマイルドなインフレにすれば良いという発想から2%のインフレ目標が設定され異次元緩和が進められた。リフレ派の理論は、バックボーンとなった「貨幣数量説」も期待に働きかけるという考え方も理論的にはおかしい。
今後、金融政策が正常化されれば図の下に下がった線から右肩上がりの線のようになるが、その時に金利の上昇は避けられず、混乱の可能性があるとの認識を示した。
一時的な混乱はあるが破綻はない
神津氏の提起を受けて参加者からの質疑を受けた。論点のひとつは今後、金利が上昇すると日銀は金融機関が日銀に預けている当座預金の金利(付利)を上げざるを得なくなり、逆ざやから債務超過となり信用問題が発生するのではないか、という点であった。神津氏は日銀の一時的な赤字はありうるが、中長期的にはわずかなコストで銀行券を発行できる(シニョリッジ)ので問題は生じない。もし日銀が破綻するという事態になればそれは国家の破綻を意味すると述べた。
出口戦略との関連では、異次元緩和は第2次安倍政権によって行われているもので、これを変えるためには選挙を通じて政治を変える必要があると述べた。また、「低炭素社会に向けて日本は国際的な信用を落としている」という指摘に対して、環境問題も金融政策も国際的な信用を高めることが重要と指摘、最後に「国際社会の中で名誉ある地位を占めたいと思う」という憲法の前文を引用し、講演会を終了した。(事務局 蜂谷隆)