これまでの研究会

これまでの研究会 >> 記事詳細

2018/07/04

第28回研究会報告

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
一帯一路の「国際公共財」としての意味は大きい
      国士舘大学21世紀アジア学部教授 平川 均氏

 2018年3月24日に開かれた第28回研究会は、国士舘大学21世紀アジア学部教授平川均氏に「『一帯一路』でアジアはどう変わるか」と題して話していただいた。一帯一路は中国が覇権を強めるための独自の経済圏形成ととらえる見方が多いが、平川氏はアジアにおける「国際公共財」としての側面も見ないと正確に理解できないのではないかと述べた。また今後の世界経済は人口の多い中国、インドに加えASEANが牽引するようになるとの見通しを示し、中国はこの動きをうまく取り込んでいると述べた。

日本政府は時代の変化を見誤った

 一帯一路にはふたつの側面がある。ひとつは中国の覇権と地政学的な対策。もうひとつは世界経済のフロンティア創出という側面で、これは「21世紀のマーシャル・プラン」的、すなわち国際公共財的な側面である。

 一つ目の中国の覇権と地政学的な対策という面は、習近平国家主席の自信と野心から来ているが、これは圧倒的な外貨準備など中国経済の飛躍的発展がある。経済規模の拡大で資源消費国となり、周辺国やアフリカからの資源確保が必要となった。TPPへの対抗策という面だけでなく、リーマン・ショック後に中国が4兆元の景気対策を行ったことで生じた国内過剰生産の解消策という面もある。

 二つ目の国際公共財的な側面は、これまで注目されなかった地域でインフラ整備によって新しい市場、フロンティアの創出である。恩恵を被る中央アジア諸国や利害が一致するASEANだけでなく、これまで対立してきたインドやパキスタンあるいはロシアとも協調的な枠組みができつつある。具体的には上海協力機構、ユーラシア経済連合などである。こうした中でヨーロッパ諸国も動き始めた。それまで共通の対中政策を持たなかったEUもインフラ優先で協力関係ができ、イギリスも国際金融のセンター維持の観点から動いた。日本はAIIBに加盟していないが、中国の覇権的な動きだけを見て、こうした国際的な動きを見ようとしなかったのではないか。

 平川氏の講演の後半は、20世紀後半以降の直接投資の構造変化についてで、先進国の企業が他の先進国に投資するというモデルから70年代ころからの途上国の低賃金を使って先進国に輸出するモデルとなった。現在は新興経済国の潜在市場に着目して新興国で生産するというモデル「PoBMEs投資発展モデル」に変わってきている。人口が多いことが潜在的大市場経済となる。中国、インド、ASEANなどこれに当てはまる。一帯一路はこの時代の流れにうまくマッチしているとの見方を示した。
 
「PoBMEs投資発展モデル」の可能性

 平川氏の提起を受けて参加者からの質疑を受けた。中国の覇権的動きが強まる中で他国とのwinwinの関係は築けるのか、人口減少・高齢化に向かう中国経済は本当に発展するのかなど、多くの質問、疑問が出された。また、人口の多い国々が経済発展するという潜在的大市場経済のモデルをどう見るのかという点も論議された。(事務局 蜂谷隆)


 



08:26

LINK

次回研究会案内

第44回研究会
「21世紀のインドネシア経済-成長の軌跡と構造変化」

講師:加納啓良氏(東京大学名誉教授)

日時:5月11日(土)14時~17時

場所:専修大学神田校舎10号館11階10115教室(会場が変更となりました。お間違えないように)

資料代:500円
オンライン参加希望者は、以下の「オンライン参加申し込み方法」をお読みの上、トップページの「メルマガ登録」から参加申し込みしてください。
オンライン研究会参加申し込み方法

 

これまでの研究会

第34回研究会(2020年2月15日)「厳しさ増す韓国経済のゆくえ」(福島大学経済経営学類教授 佐野孝治氏)


第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12f日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授田中隆之氏)

これまでの研究会報告