一帯一路の「国際公共財」としての意味は大きい
国士舘大学21世紀アジア学部教授 平川 均氏
2018年3月24日に開かれた第28回研究会は、国士舘大学21世紀アジア学部教授平川均氏に「『一帯一路』でアジアはどう変わるか」と題して話していただいた。一帯一路は中国が覇権を強めるための独自の経済圏形成ととらえる見方が多いが、平川氏はアジアにおける「国際公共財」としての側面も見ないと正確に理解できないのではないかと述べた。また今後の世界経済は人口の多い中国、インドに加えASEANが牽引するようになるとの見通しを示し、中国はこの動きをうまく取り込んでいると述べた。
日本政府は時代の変化を見誤った
一帯一路にはふたつの側面がある。ひとつは中国の覇権と地政学的な対策。もうひとつは世界経済のフロンティア創出という側面で、これは「21世紀のマーシャル・プラン」的、すなわち国際公共財的な側面である。
一つ目の中国の覇権と地政学的な対策という面は、習近平国家主席の自信と野心から来ているが、これは圧倒的な外貨準備など中国経済の飛躍的発展がある。経済規模の拡大で資源消費国となり、周辺国やアフリカからの資源確保が必要となった。TPPへの対抗策という面だけでなく、リーマン・ショック後に中国が4兆元の景気対策を行ったことで生じた国内過剰生産の解消策という面もある。
二つ目の国際公共財的な側面は、これまで注目されなかった地域でインフラ整備によって新しい市場、フロンティアの創出である。恩恵を被る中央アジア諸国や利害が一致するASEANだけでなく、これまで対立してきたインドやパキスタンあるいはロシアとも協調的な枠組みができつつある。具体的には上海協力機構、ユーラシア経済連合などである。こうした中でヨーロッパ諸国も動き始めた。それまで共通の対中政策を持たなかったEUもインフラ優先で協力関係ができ、イギリスも国際金融のセンター維持の観点から動いた。日本はAIIBに加盟していないが、中国の覇権的な動きだけを見て、こうした国際的な動きを見ようとしなかったのではないか。
平川氏の講演の後半は、20世紀後半以降の直接投資の構造変化についてで、先進国の企業が他の先進国に投資するというモデルから70年代ころからの途上国の低賃金を使って先進国に輸出するモデルとなった。現在は新興経済国の潜在市場に着目して新興国で生産するというモデル「PoBMEs投資発展モデル」に変わってきている。人口が多いことが潜在的大市場経済となる。中国、インド、ASEANなどこれに当てはまる。一帯一路はこの時代の流れにうまくマッチしているとの見方を示した。
「PoBMEs投資発展モデル」の可能性
平川氏の提起を受けて参加者からの質疑を受けた。中国の覇権的動きが強まる中で他国とのwinwinの関係は築けるのか、人口減少・高齢化に向かう中国経済は本当に発展するのかなど、多くの質問、疑問が出された。また、人口の多い国々が経済発展するという潜在的大市場経済のモデルをどう見るのかという点も論議された。(事務局 蜂谷隆)