ゼロインフレ、ゼロ金利、ゼロ成長の日本は、定常状態の入口にいる
水野和夫さん(日本大学国際関係学部教授)
第11回経済分析研究会は3月8日、日本大学国際関係学部教授である水野和夫氏に「資本主義は終わるのか?」というスケールの大きいテーマで話していただいた。水野氏の分析視角は、長い時間軸すなわち歴史的観点からとらえる点で、エコノミストの中でも異色である。そのせいかファンも多い。事前の反響も大きく、これまでの研究会で最高の入りを記録した。
資本主義は終わりに近づいている
水野氏は、日本および世界経済の現状を「歴史の危機=資本主義の危機」ととらえ、ゼロ金利、ゼロインフレ、ゼロ成長が進行していると見ている。ゼロ金利は、投入した資本が利潤を得ることができなくなったことを意味している。
この点から歴史をひもとくと16世紀のイタリアでも金利は8%から1%以下まで落ちている。当時はイタリア、スペインの地中海世界に「中心」があり、南米などで収奪して利益を得ていたが、これがそれまでの新興国であるオランダ・イギリスに「中心」が変わった。それに伴って1回ごとに配当を出して終わる「1回限りの資本主義」から株を売買できる株式会社による「永続資本の資本主義」=「近代資本主義システム」となった。
「1回限りの資本主義」は約400年続いたが、最後の100年である16世紀が、「歴史の危機」であった。そして、続く400年が「近代資本主義システム」の時代で、1971年のニクソンショックからの100年(すでに40年が経過した)が「歴史の危機」である。
16世紀の危機を見れば、現在の危機の諸相が浮かび上がってくる。ひとつは「過剰投資・生産」である。超過利潤を求める資本の本質から来ているが、投資先がなくなり、利潤率が低下(ゼロ金利)となる。もうひとつは当時の新興国(オランダ・イギリス)が台頭、豊かになり始め、それまでのイタリア・スペインが独占していた東欧の小麦の価格が上がった(「価格革命」)。
現在の危機における「過剰」は、世界の粗鋼生産量、日本のスーパーの店舗面積を見ると分かる。「価格革命」はエネルギーすなわち原油で起こっている。
また、水野氏は、グローバリゼーションは絶えず周辺を拡張しようとする「帝国」とその組み替えと、とらえる必要があることを強調、現代においてはBRICsが台頭してきているが、「周辺」がなくなりつつあるため、資本主義自体が行き詰まっていると言う。日本の貿易収支の赤字と経常収支の赤字拡大は、こうした点から説明ができると語った。この先、資本主義に替わるシステムが登場するが、それには時間がかかる。それまでは「定常状態」となるだろうとした。
演題の「資本主義は終わるのか?」という問いかけに対する水野氏の答えはyesである。もうじき終わるのだから、ジタバタして「アベノミクス」のように、ムリヤリ「成長」させようとするのではなく、ゼロ成長すなわち「定常状態」を維持するのがよい。「成長教」にしがみつけば、犠牲者が増えることを強調した。
「ゼロ成長社会」に展望がある
参加者との質疑では、ゼロ成長・定常型社会をどう見るのか、自然エネルギーを積極的にとらえるのか否か、資本主義は絶えず周辺を求めるのかなどに質問が集中した。
水野氏は質問に答えて、時代が大きく変化する時には、芸術家の感性がいち早く危機をとらえると指摘、歴史的にとらえる経済分析には欠かせないと語った。触覚をたくさん持ち、感性を磨かないと目先のデータや「多数の意見」に惑わされるということだ。「みんながそう思わないとシステムは変わらないが、その時はもう決着がついている」とも語った。歴史を俯瞰する「水野史観」は、目先にとらわれ狭い分析視角に陥ることに対する反省を促していると感じた。
なお水野氏は、「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書)を出版しました。ぜひご一読を。(事務局 蜂谷 隆)