過度の貿易依存とサムスン・現代2極集中で歪みが拡大する韓国経済
立教大学経済学部教授 郭洋春氏
第12回経済分析研究会は6月7日、立教大学経済学部教授の郭洋春氏に「韓国経済の強さと脆さ」というテーマで話していただいた。郭氏は、韓国経済が過度の貿易依存となっていること、サムスン、現代など一部財閥に利益が集中、他方で非正規雇用が増え、社会の歪みが拡大している現状を報告した。近年、韓国経済についてまとまった報告が少ないこともあって、参加者からの質問も多く出、活発な論議が展開された。
低下する賃金、非正規雇用増で伸びない消費
韓国経済をマクロ的に概括すると、GDPは長期的に低下、1人あたりGDPも3万ドル手前で足踏みしている。高度成長時代は終わり、低成長期を迎えている。こうした韓国経済が抱える問題として、郭氏は次の3点を上げた。
ひとつは過度の貿易依存である。輸出+輸入のGDP比を見ると、2011年以降3年連続で100%を超えている。輸出を増やしても素材や部品を国内で調達できないため輸入に頼らざるを得ない。特に日本からの輸入を増やすことになり、対日赤字が増加する構造になっている。貿易黒字は過去最高になったが、いびつな貿易構造は変わっていない。
ふたつめは、過度の貿易依存と裏腹の関係だが内需特に消費が弱いことである。これは賃金の伸びが傾向的に下落しているためで、生産性の伸び以下となっている。また非正規雇用が急増しており、労働分配率は下がり続け、格差も拡大している。
三つ目は、巨大財閥特にサムスン、現代に利益も富も集中していることである。すでに総資産の50%以上が上位4社に集中している。企業オーナーや経営者の所得番付を見ても、サムスン、現代グループが圧倒的に多い。この結果、サムスン、現代グループでGDPの35%を占めている。国の法人税の5分の1が両グループが納めたものだ。
以上のような傾向は2000年以降強まった。97年のアジア通貨危機後、IMFからの融資を受ける条件として大幅な規制緩和や労働力の流動化などを求められ、新自由主義的な政策に大きくカジを切ったことが契機となっている。大量の死者を出したセウォル号沈没事故も規制緩和が背景にある。
郭氏の報告を受けて、参加者との質疑を行った。中国との関係、中小企業育成、財閥の問題、サムスンの労務管理などに質問が集中した。
巨大化し過ぎたサムスンと現代
郭氏は質問に答えて、財閥が巨大になったことの負の側面が表れてきている。これまで2回、「解体」のチャンスがあった。しかし、いずれも整理・統合でお茶を濁してしまった。サムスン、現代はあまりに大きくなりすぎて手を付けられないのが現状と述べた。
また、サムスンの労務管理は、労組もなく35歳で部長にならないと社内にいられないほど競争が激しいが、学生には人気があるという。他方でサムスンは、中国進出に際して徹底した現地化を行ったことで日本企業に勝ち、世界でシェアを拡大した。しかし、技術開発を日本人の技術者の再雇用に頼り、積み上げた独自技術がない点が弱みとなっている。
韓国経済は、部品や素材を日本から輸入せざるを得ず、対日赤字が継続している。これは先進国に早く追いつこうと日本からの輸入に頼り、中小企業育成を怠った結果であると述べた。
サムスンを頂点とした巨大財閥の裏側には、非正規雇用の増加、過度な受験競争、規制緩和による安全軽視がある。また極端な少子化も進んでおり、社会の歪みは拡大していると指摘した。
※郭氏の報告の詳細は『FORUM OPINION』26号に掲載されます。
(事務局 蜂谷 隆)