連合「芳野・清水体制」と22春闘
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢
岸田首相は、労便トップの代表者らが出席する政府の「新しい資本主義実現会議」で、22春闘に向けて「自社の支払い能力を踏まえ、最大限の賃上げが期待される」と述べた。
岸田首相の賃上げ「3%超」
第2次安倍政権の発足以降、2014年の労使交渉から政府が賃上げを要請する動きが続き「官製春闘」と呼ばれた。安倍首相は18年の政労使会議の場で「3%以上」という具体的な数値目標を掲げ、賃上げ交渉を政府がけん引することに取り組んだ。その後、菅首相もコロナ禍でも賃上げを続けるべきだと訴えた。安倍・菅の両政権は、そのつど「要請」や「お願い」といった言葉を使って春闘の賃上げをリードしてきたが、岸田政権はその言葉使わず、「期待」にとどめた。
連合にとっては、岸田首相は最も頼りにならない政権だ。22年春闘で連合はベアと定昇を合わせて「4%程度」の賃上げ要求を掲げ、政府側に「足を引っ張らないようにしてほしい」と伝え、早くもその前哨戦が始まっている。
先日の総選挙では、与野党がそろって「分配」の重視を訴えた。野党は、その財源は「金持ち、有価証券売買益、企業増税を」と主張、一方与党サイドは、「企業課税をすると企業は海外に脱出、経済は死んでしまう。「金持ちから」といっても、日本は年間所得1000万円以上の世帯は12%と、1996年の19%をピークに減り続けている」と反論、むしろ「求められているのは成長戦略だ」と主張する。
はるか昔に大学で学んだ経済学のイロハに、国民所得三面等価の原則というのがある。三面等価とは『生産・分配・支出』が一教するということだ。だが、GDP世界3位の経済大国二ッポンが三面等価の通りにならないのは、「生産=分配=支出」の“=”が断ち切れて、等価循環になっていないからだ。これを正すのは、生産による付加価値の分配を適切に受け取り、それを消費している労働者を組織している労働組合が、国民運動を仕掛けるしかない。
連合芳野体制への期待と懸念
10月の連合大会で、芳野友子会長の新執行体制がスタートした。連合初の女性会長をめぐっては、「ジェンダー平等に積極的に取り組む姿勢を示す意義がある(日経電子版 ”Nikkei View”10.7)とか、「(新会長は)多様性を呼び掛け、性差別解消や非正規雇用で働く女性らの待遇改善への強い決意を示した」(東京新聞10.7)など、各紙は好感をもって迎えた。
筆者は、連合の新三役の誕生を何度か見てきたが、その都度その組合せに関心を持ってきた。添付した表「連合春闘31年の歩み」の右の列にある連合の歴代会長・事務局長の変遷を見てもらいたい。
初代の山岸会長(情報労連)・山田事務局長(ゼンセン同盟)は民間の賃金事情に疎く、春闘共闘委員会と金属労協(IMF-JC)双方の春闘で重きをなした藁科(電機労連)を会長代行に就け、連合春闘初陣の指導を藁科に委ねた。2代目芦田(ゼンセン同盟)も鷲尾(鉄鋼労連)を事務局長に据え、4代目笹森(電力)には草野(自動車総連)、5代目高木(UAゼンセン)には古賀(電機連合)、6代目は古賀・神津(基幹労連)のJCコンビが安倍内閣の政労使会議に参画、14春闘で6年ぶりにベアを復活させて、7代目の神津・相原(自動車総連)のJCコンビに引き継いだ。
このように、賃金に疎い会長にはJC系にサポートさせるか、JCコンビで春闘を仕切るのが連合人事の妙である。
芳野は、はJuki労組の出身で上部産別は総同盟の流れをくむ全金同盟で、「春闘」に対する「賃闘」だが、それでも全金同盟はJC発足当初から加盟してJC春闘とのなじみが深い。しかし、事務局長に日教組の清水が就いた。清水は記者会見で「日教組では私学や大学職員の春闘に関わってきた」と発言、なんとも危なっかしい。
連合春闘、いま3連敗中
そこで、ふたたび「連合春闘31年の歩み」の表に戻ると、19~21春闘と3連敗中だ。芳野・清水連合の初陣となる22春闘は、なんとしても連敗脱出を図ることである。
大それたことを言わなくていい。まず、賃上げ額と率を3連敗前の水準に戻すこと、具体的には「額で7000円、率で2%半ば」を取り戻すことである。