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2013/04/26

第3回研究会(2012年7月25日)報告

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
日本経済の再生と税・財政改革
専修大学教授・町田俊彦氏

 経済分析研究会の第3回研究会は2012年7月21日、専修大学で開催された。国会で消費増税をめぐる論戦が行われている真っ最中で時宜を得た企画であった。民自公の3党合意では、消費増税が先行、社会保障改革は政府案からさらに後退という状況となったが、町田氏には日本経済全体の中で国の財政問題を考えるという視点から今回の「税と社会保障の一体改革」を論じていただいた。


負担は企業から個人にシフト
 現在進められている「税と社会保障の一体改革」について、町田氏は三つの問題点を上げた。

 第一は、社会保障改革は消費税増税の隠れ蓑に過ぎないという点である。これは経過を見れば一目瞭然で、3党合意に向けた交渉で自民党から社会保障改革について反対された時に民主党があっさり譲歩したのは、このことの証左である。

 第二は、消費税は低所得者に負担感が強い逆進性が問題になっているが、それ以上に問題なのは消費税を負担しない企業の問題だ。現行の社会保障の公費負担の一部を法人税が担っているが、この負担を免れることになるからである。また、これまで厚生年金や健康保険といった社会保険料の半分を企業が負担しているが、軽減させることになる。企業から個人への負担のシフトが生じる。低所得者の負担増になる逆進性も問題だが、それ以上に大きな問題である。

 消費税の「社会保障目的税化」と言われているが、これは租税や社会保険料という公的負担の担い手の大幅シフトとセットになっていることを見ておく必要がある。

 第三は、2004年の年金制度改革で続く保険料引き上げと復興増税、この上に消費税増税が加わり、中低所得層の負担が極めて重くなることである。負担増は消費が上向かないことを意味する。このことはデフレ経済から脱却し内需中心の経済に転換させることをむずかしくさせるのではないか。

 日本経済は、貯蓄過剰がデフレと結びついている。貯蓄率が高い高所得者の負担を増やすことが経済再生に寄与するので、所得税、法人税改革を優先させるべきである。また、消費税よりも所得税、法人税の方が弾性値が高く、景気が回復したときに税収増を期待できる。


社会保険と税のすみ分けが必要
 町田氏の提起を受け、参加者による質疑が行われた。「財政危機」という認識については、赤字が限りなく増加することは問題だが、「財政危機」という言い方はしないようにしているとのことであった。むしろ経済に問題があり、再生させることで財政の問題は解決の方向に向かうという認識を示した。

 「社会保障目的税化」については、国民に受け入れやすいという積極面もあるので一定に評価すべきという意見が出され、議論となった。

 今後の課題としては、社会保障の財源として社会保険と税の関係をどう整理していくのかという問題について、町田氏から改めて提起があった。「保険方式でまかなえるものは保険方式にする」という考え方から、年金は最大限保険方式とする。医療、介護は、現役世代は保険方式となるが、所得の少ない高齢者などは税が中心になる。社会保険方式は負担と受益の関係が明確で、税よりも国民に受け入れられやすいという。学会でも議論が始まったばかりで、今後も注視していきたい。

 このほか、地方分権化に絡む論議や消費税におけるインボイス方式などについても議論があった。

 消費増税法案は混乱した政局の中で成立したが、財政問題、社会保障改革は、今後も大きなテーマとなるので、経済分析研究会としても積極的に取り上げていきたい。(事務局 蜂谷隆)

町田氏の報告の詳細は『FORUM OPINION』18号に掲載されています。

09:01

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