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2023/07/28

POLITICAL ECONOMY第241号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
現実を忘却させるナショナリズム 
               経済アナリスト 柏木 勉

 現在、グローバル化への反動が大きくなって、米中対立をはじめとした国民国家の対立が激化している。しかし、世界史的段階という観点からは、すでに国民国家は消滅の段階にはいったというべきだ。この消滅の流れを加速化させなければならない。資本の世界的展開からすれば、経済のグローバル化は止まらない。この経済のグローバル化が結局は国民国家や国民意識を消滅させていくのだが、人間の行動は観念を通さなければ現実のものにならない。従って観念の上で(思想的に)国民国家や国民意識を克服しなければならない。そこで問題になるのがナショナリズムである。このナショナリズムは依然として残存し、その影響力が人間と人間の殺し合いを演じさせている。そこで、今回はウクライナ戦争にも若干触れつつ、ナショナリズム克服の端緒を1、2点述べさせていただきたい。

ナショナリズムの歴史的相対性

 まずは、ナショナリズムの歴史的相対性を再確認することが必要だろう。ナショナリズムによって形成されてきた国民国家はたかだか2百数十年前にできたものにすぎない。つまり、ごく最近、近代以降に形成されたものでしかないのだ。この歴史的起源を忘却してはならない。はるか遠い大昔から存在してきたかのような「祖国」は虚構である。近代以前には日本人も中国人もフランス人もドイツ人等々も存在しない。日本で言えば、日清戦争を通じて日本国民・日本人が形成されたのだ。それ以前には日本国民は存在しない。幕末になっても一般民衆には同じ日本人とか同じ日本国民などという意識は存在しなかった。薩摩藩の農民や会津藩の農民の間に、同じ日本人とか同じ日本国民などという意識は存在したか?と問えばすぐわかる。また対外的意識においても、馬関戦争では長州の百姓たちは外国軍の砲弾運びを嬉々としておこなっていた。

 つまり、ナショナリズムは近代以降に歴史的起源を持つものであり、歴史的起源をもつものは、歴史的に新たな存在によってとってかわられるということだ。

ウクライナ国民の誕生とその幻想

 ここでウクライナについて、少しふれる。小生はウクライナ戦争なるものにはあまり関心がない。日本のマスコミは連日大騒ぎしているが、それは彼らにとって他人事の戦争ゲームであり、欧米が騒いでいるから自分たちも大騒ぎする欧米コンプレックスにすぎない。まさにプロパガンダである。

 小生が多少関心をもったのは、ウクライナの動向からウクライナ国民の形成が見られたからである。いまごろになってやっと国民意識ができてきたのだ。

 ウクライナは、オリガルヒとそれに癒着した政治家が支配する腐敗・汚職大国だった。破綻国家といわれてきたゆえんである。この状況は基本的にはロシアと同じだった。2014年以降の8年間の戦闘でも汚職天国に変化はなかったが、戦争で国民意識が形成されるのはどこでも同じだ。2014年のロシアによるクリミア占領はウクライナの国民意識誕生に大きく貢献した。

 東ウクライナのハルキウでマイダン運動に参加し、ドイツ紙に寄稿した若い知識人ジャーダンは次のように述べている。

 「突然、われわれすべてがなにか失うものをもっている、なにか賭けなければならないものがあるということが明らかとなった。突然われわれすべてが一つの祖国をもっているということが明らかとなった。経済的に弱く、社会的に不公正で、汚職にまみれているとしても、やっぱりわれわれの祖国だ。ほかに祖国はない。この共属感情、この共通の国境をもっているという感情は軽率に無視するにはあまりに根本的で、重要だ・・・」(注:伊東 孝 「ウクライナ ―国民形成なき国民国家」 スラブ・ユーラシア研究センター・2014年6月9日付)

幻想による国民意識、国民国家の形成―国民国家など命をかけるに値しないー

 これがナショナリズムという幻想による国民の形成だ。なぜ幻想かと云えば、現実は「経済的に弱く、社会的に不公正で、汚職にまみれている」。だが、この現実よりも「我々の祖国」という幻想が強力になる。現実は脇におかれて、幻想が頭を支配し、戦争にかりたてる。歴史的に形成された共同幻想が、新たに一体となった「国民」というもの、「国民国家」というものをつくりあげるのだ。現実は経済的に弱く、社会的に不公正で汚職にまみれてけっして一体ではない。だが、何か崇高な一体性が頭脳の中だけにつくられる。

 「経済的に弱く、社会的に不公正で、汚職にまみれている」のはロシア国内も同じだ。現実は両国の民衆にとって同じなのだ。すると、ウクライナの民衆はロシア民衆と共に「反プーチン=反ロシアオリガルヒ、反ロシア保安局」、同時に「反ウクライナオリガルヒ、反腐敗・反汚職政治」を掲げて闘うべきということになる。それが現実と闘うということになる。両国の民衆が共闘して互いの支配体制と闘うべきなのだ。

 だがナショナリズムは現実を忘却させる。「ロシア対ウクライナ」の構図によって、両国の民衆が殺しあう。米中対立、日本国民の反中国、中国国民の反西欧・反日」という構図も全く同じだ。祖国防衛キャンペーンにたぶらかされてはならない。「祖国」のために互いに殺しあって、どちらの「祖国」が勝とうとも、その後は以前の支配体制がそのまま続くか、あるいは新たな支配体制に変わるか、どちらかだ。どちらにしても支配の体制がつづくことに変わりはない。従って国民国家など命をかけるに値しないのだ。たぶらかされてはならない。

11:08

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第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

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」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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