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2025/07/19

POLITICAL ECONOMY第287号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「自分の都合の良い時間に働きたい」は当たり前なのに
半人前の待遇で一人前に働く非正規労働者

                              街角ウォッチャー 金田 麗子

 日本の非正規労働者は、「主体性の罠にはまり」半人前の待遇で一人前のように働くと、『<一人前>と戦後社会』(禹宗杬沼尻晃伸著、岩波書店)は指摘する。本書は戦前、戦後から現在までを、「一人前」に扱われたい、をキーワードに主に雇用政策を通じて分析している。

 私の息子は30代後半だが、大学入学と同時に飲食小売大手チェーン店にアルバイト就労し、そのまま現在まで20年近い勤続年数で働いている。20年選手の彼は、製造販売から日々の入出金、売り上げ管理、注文在庫管理など事務作業もすべて一人で行っていて、残業も多い。連合系の職場の労組に加入していて、無期雇用に転換。社会保険も完備されているが、収入は残業代も入れて月平均22万円くらい。ボーナスもない。典型的に半人前の待遇で一人前に働く非正規労働者である。

 彼の職場は、正社員はエリアマネージャーだけ。他は非正規社員で構成されている。通年人手不足で、彼はエリアの他店舗に応援に行くこともあった。同業他社の中には、非正規労働者の確保が出来ず、開店時間の縮小や廃業に追い込まれる店舗さえある。

働かざるを得ない現実

 「主体性の罠」という個人の意識で働いているというよりも、既に「働かざるを得なくなっている」現場が実態なのではないか。かつて私自身中規模書店チェーン店のパートで働き、1978年にパート労組を立ち上げ20年活動した。今書店は存亡の危機にあるが、当時から書店は利益率が低く6割を非正規労働者が占めている実態だった。

 現在私は、精神障がい者のグループホームで非正規職員として働いているが、昨年来、職員や同僚が病気や家族の介護などで休職が続き、一時期70才の私と80才の同僚2人でシフトを埋めていたこともある。経営母体はNPOで、団体の責任者も駆けつけるが、いかんせん実務は我々が行わざるを得ない。求人広告を出しても来ないし来ても断られる。「主体性の罠」にはまっているというより、利用者がいるかぎり、誰かが働かざるを得ない職種なのである。

 かつては非正規労働者といえば、主婦パートというイメージで語られていたが、現在は40代~50代の氷河期就職世代、高齢者の再就職、さらに15~24才の若年層まで広がっている。内閣府の「高齢社会白書」(2024年版)によると、2023年65歳以上の就業者数は20年連続上昇している。労働力人口総数に占める65才以上の割合は13.4%。65才以上の非正規率は76.8%である。

 氷河期就職世代やその下の世代までが非正規化している。15~24才のうち非正規の比率は22年で50.4%という高水準。学生アルバイトが含まれているのを勘案しても、相当数が非正規として職業生活をスタートしている状況だ。

「リーマン震災世代」も不安定で低年収

 『就職氷河期世代』(近藤絢子、中央公論社)によると、就職氷河期世代とは、1993年~2004年に学校を卒業した世代で、バブル後の長期不況の影響で企業は、雇用調整として新規採用者の減少と非正規雇用の増加で対応した。その結果、就職氷河期世代が生じたという。就職氷河期世代、特に後期は上の世代に比べて長期に渡って雇用が不安定で年収も低い。

 更に氷河期よりも下の世代は、景気回復期に卒業した世代であるのにもかかわらず、雇用が不安定で年収が低いままであることが、データをもとに示されている。

 ポスト氷河期就職世代(05年~09年卒)は、氷河期が終わり、新卒市場が売り手市場になったと言われていた時期に就職した世代、リーマン震災世代(10年~13年卒)は、リーマンショックや東日本大震災の影響を受けた時期に卒業した世代、と言われている。

 17年の「就業構造基本調査」(総務省)によると、各世代の初職の雇用形態のうち非正規の割合はバブル世代は7.1%、氷河期前期世代は10.6%、後期世代は16.7%、ポスト氷河期世代は16.7%、リーマン震災世代は18.3%である。氷河期以降の世代も卒業後すぐに正規雇用の仕事に就く人は限られていたのである。

非正規を「望む」、「望まぬ」という線引きはおかしい

 冒頭の『<一人前>と戦後社会』では、いわゆる非正規を「望む」、「望まぬ」という線引きで対応する問題点を指摘している。というのは非正規雇用を選んだ理由として、男女問わず「自分の都合の良い時間に働きたいから」が最も多く、「正規の職員、従業員の仕事がないから」を選択している人は1割程度。政府はこの層だけを「不本意の非正規」とみなし、対策を行うとしている
からだ。

 そもそも「自分の都合の良い時間に働きたい」という理由で選んだ労働の価値が、通常の労働に比べて見劣りする理由はない。ヨーロッパの多くの国では、パートタイマーで働く価値が、フルタイムで働く人より下がることはなく時間当たりの価値は変わらないと見ている。

 これに対し日本では、「パートで働く」あるいは「非正規で働く」、雇用形態が違うだけで、「半人前」の扱いをされている。時間あたりの価値が大きく下がるわけではない。個人の意思とはかかわりないのである。

 そもそも働く人が、「自分の都合の良い時間に働きたい」と思うのは、ごく当たり前。にもかかわらずなぜ非正規を選ぶのだろうか。それは日本の正社員・正規雇用者は、「長時間働くもの」だから、非正規は、正規に課せられている「長時間労働」ゆえに、「不本意」で選択しているのだ。

 同書では事例として、雇用区分の転換時の試験を廃止、三段階の社員区分をやめ「社員」に統一。アルバイトを除き無期雇用、月給、賞与ありの待遇にした金融保険業界の会社などが紹介されている。

 家事、子育て、介護のみならず健康維持のための時間、このすべてのケアのための時間が保障されない「正規雇用」の変革と、雇用の安定、低賃金の底上げこそが必要である。非正規の不安定雇用、低賃金は年金に影響を与え、大量の無年金、低年金の高齢者が生じる。目の前の参議院選挙でも中心的な課題である。

21:12

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次回研究会案内

第45回研究会
「トランプ関税でどうなる欧州経済」

講師:田中素香氏(東北大学名誉教授)
日時:10月25日(土)
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場所:専修大学神田校舎1号館4階ゼミ42教室(東京メトロ半蔵門線、都営地下鉄・新宿線、三田線神保町駅 出口A 2下車徒歩3分)
資料代:1000円


 

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第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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