「赤信号、みんなで渡れば怖くない」なのか
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年
内閣府が1月21日に経済財政諮問会議に提出した「中長期の財政に関する試算」によると、国と地方をあわせた債務(借入金)残高は20年度末に1159兆8000億円に上り、感染拡大前の去年1月の試算と比べると、79兆1000億円増え、債務の規模はGDP(国内総生産)の266.1%に上ることが明らかとなった。20年度に3度の補正予算を編成、新型コロナウイルス対策として大規模な財政出動に踏み切ったためだ。
同試算を報じた日経は「新型コロナウイルスの感染再拡大により経済と財政の先行きは一段と不透明感が増している」と論評、朝日は財政の悪化を取り上げ、1月26日付社説で「日銀が実質的に政府の借金を引き受ける異例の政策はいつまでも続けられないことを、政府は肝に銘じなければならない」と警鐘を鳴らしている。
遠のく財政の健全化
両紙が財政の現状に懸念を表明するのには理由がある。同試算で示された今後の財政見通しによると、財政健全化の指標とされる「基礎的財政収支」(政策に必要な経費を主に税金で賄えているかどうかを表す)が21年度以降、名目成長率3%という高い成長が続くと想定しても、黒字化するのは29年度と政府が見込んでいることだ。つまり今後8年間も財政赤字が続き、債務残高は累増、現状の低成長が続くという慎重なケースでは同残高は1327兆円に膨らむと試算されている。
日本の債務の規模は国際的に見てどの程度なのか、それは懸念される水準なのか。統計数字が揃う2019年の政府総債務残高(対GDP比)ランキング(グローバルノート)を見ると、日本は237%でトップ、以下2位ベネズエラ232%、3位スーダン201%、4位エリトリア189%、5位ギリシャ180%の順。G7諸国は13位アメリカ108%、19位フランス98%、69位ドイツ59%などとなっており、先進国で日本の債務規模が突出していることが分かる。昨年からの世界的なコロナ禍で各国の債務は増大しており、借入金の比率はさらに拡大していることは間違いない。
債務危機が再び起こる懸念
想定される懸念とは何か。直近のケースではリーマン・ショック後の2010年、財政破綻と信用不安からギリシャ、欧州に広がった世界同時債務危機が思い浮かぶ。ドイツ国債の入札が予想外の不調に終わり、スペインとイタリアの短期国債利回りが急騰したため、ユーロ圏全域で国債市場が機能停止状態に陥った。とくに財政力の弱いポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインの国債が暴落、「PIGS危機」が表面化する。EU、ECB(欧州中央銀行)、IMFの連携した支援で火は消し止められたが、世界的な超金融緩和と債務の増大が債務危機を再生産するとの懸念は消えない。
しかし現実には、日銀の超金融緩和政策によるゼロ%金利の継続と財政ファイナンスで債務危機の兆しは見えない。一方で、「日本の公的債務は貸手のほとんどが国内の企業や投資家であり、債務危機に至らない」との指摘や「巨額の政府金融資産を差し引いた純債務は半分程度で、財政破綻が差し迫っているとまではいえない」との声も根強い。
当面、新型コロナ対策と経済の急激な落ち込み回避のために巨額の財政出動は避けられないが、コロナ後のノーマルな経済・財政運営を考えたときに、この巨大な債務の累増を放置したままやり過ごすことが可能なのだろうか。「債務の遺産を果てなく抱え込むことは、経済成長の阻害や貧困の悪化を通じて、将来の危機の種をまくことになりかねない」(ロイター)との指摘は的はずれとは言えない。
コロナ禍で各国政府が大量の国債発行に踏み出しており、「緊急時のやむを得ない措置」として容認する空気が支配的で、「自国通貨を発行できる政府はインフレにならない限り大量の国債発行は問題ない」とするMMT(現代貨幣理論)の提唱などもあって、「財政危機論」への注目度は低い。まさか、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」との一昔前のジョークを信じているわけではないでしょうが…。