パリの移民問題と日本の労働力不足
横浜市立大学名誉教授 金子 文夫
6月の後半、パリに滞在した。6月のパリは気候がよく、旅行には最適の季節といわれる。たしかに連日晴天でさわやかな風が吹き、夜9時ころまで明るいというよい条件に恵まれたが、その一方、物価の高いこと、移民の多いことが強く印象に残った。
折からの円安・ユーロ高の影響もあったとはいえ、カフェで軽食をとると、1品16~20ユーロ(1ユーロ=140円として2240~2800円)もするのには驚いた。しかし、スーパーマーケットで買い物をすると意外に安いので、カフェは観光客用の値段かとも思う。日本でもホテルの喫茶室のコーヒーはやたらに高いので、そんな感覚ではないだろうか。地下鉄やバスの料金は市内
全区間同一なので、これは日本より安いといえる。
移民増で負担感
フランスは移民大国として有名であり、特にパリには移民が多い。地下鉄に乗ると、中東、北アフリカ、西アフリカ、カリブなどから来たと思われる人々が目につく。空港から乗ったタクシーの運転手はカンボジア出身だった。グローバル都市のタクシー運転手はどこも移民が多いようだ。以前、ニューヨークで乗った時は、アフガニスタンやエチオピア出身者だったと記憶している。パリの北部には移民が集まっており、パリ在住の日本人は治安の悪さを嘆いていた。実際に北部に足を運んでみると、たしかに移民が多く、また物価も安いと感じられた。治安については、偏見も混じっているのではないだろうか。
フランスは、かつての植民地帝国の遺産を引継ぎ、これまで移民受入れに比較的寛容であった。閣僚のなかに、開発・フランコフォニー(フランス語圏)担当大臣が置かれているのも、そうした歴史の名残だろう。日本では北海道・沖縄担当大臣がいるが、それを台湾・朝鮮担当まで広げた形といえるかもしれない。したがって、移民対応は習熟しているはずと考えられるが、そんな余裕はなくなりつつあるようだ。
EUの中核国はドイツとフランスだが、このところドイツ経済の好調とフランス経済の不調との対照があらわになってきた。フランス経済の停滞、失業者の増加とともに、移民、とりわけ文化・宗教の異なるイスラム教徒に対する排外的感情が高まってきていることは間違いない。5月末の欧州議会選挙で、右翼の国民戦線が大躍進を遂げたのも、そうした排外的感情をたくみに取り込んだ結果と思われる。東欧からの移民も含め、フランスは移民問題が大きな負担になっているように感じられた。
日本は、その場しのぎ小手先の対策
日本に帰国してみると、安倍政権の新成長戦略のなかに、外国人労働力の導入が柱として位置づけられていることがわかった。ところが、その手法は、評判の悪い技能実習制度を拡大するというもので、いかにもその場しのぎの小手先の対策である。わざわざ、移民政策と誤解されないように配慮するとしているが、今後の急速な人口減少時代を迎えるにあたって、本格的な移民政策の立案が必要になっているのではないか。当面の小手先の対応に終始するなかで、なし崩し的に外国人労働力が増加することは、人権問題、社会の安定性の観点からも望ましくないことであり、そろそろタブーに挑戦する時期に来ているのではないだろうか。