日誌


2014/07/23

POLITICAL ECONOMY 第21号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
景気の先行きは、結局は公共事業頼み
           個人消費に力強さはない

                                                     経済ジャーナリスト 蜂谷 隆     

                            

 4-6月期のGDPは前期比実質で、マイナス1.7%(年率換算でマイナス6.8%)となった。1-3月期に消費増税引き上げ前の駆け込み需要が出たことの反動である。安倍首相のコメントは「1-6月(の半年間)でならしてみると、昨年10-12月より成長している」というものであった。民間のエコノミストの中にも7-9月期に成長軌道に戻るので心配ないというコメントをする人もいる。

 確かに7-9月期はプラスに転ずるだろう。しかし、主役を期待されている個人消費に力強さはない。結局は公共事業に頼らざるを得ないのではないか。

 4-6月期だけを見ても傾向はつかめない。そこで安倍首相の言うように、14年 1-6月の四半期平均と昨年10-12月期を比較してみた。それが以下の表である。

GDP           0.61%

個人消費支出   -0.54%
企業の設備投資    6.36%
民間住宅       -3.27%
公共事業      -2.78%

 企業の設備投資以外はすべてマイナスとなっている。GDPではプラスだが、決して褒められた内容ではない。

 輸出が期待できない状況の中で、GDPの伸びを支えてきたのは内需である。その中で最も伸びているのは、上の表の通り企業の設備投資で、昨年後半から顕著になっている。1-3月期には前期比で7.7%も伸びた(4-6月期はマイナス2.5%)。4月のWindowsXPのサポート終了前に企業向けパソコンの買い換え需要があり、これも要因になった。

消費マインドは落ちている

 GDPの約6割を占める個人消費が伸びないと持続的な成長は期待できない。残念ながら昨年は年間を通して牽引役にはなれなかった。消費増税引き上げ前の駆け込み需要が出た14年1-3月期に2.0%も伸びたものの、4-6月期はマイナス5.0%という落ち込みである。

 家計調査の実質消費支出指数(住居などを除く)を半年間で平均すると、13年1-6月は100.6、7-12月は99.0、14年1-6月は98.6と、明らかに消費マインドは落ちている。理由は賃金がさほど上がらないためだ。毎月勤労統計調査によると、給与は昨年11月から前年同月比でプラスになった(今年1、2月はマイナス)ものの、物価上昇を加味した実質賃金は、昨年7月からマイナスを続けている。特に今年4月以降は3か月連続でマイナス3%を記録している。

 消費増税による駆け込み需要は、賃金上昇の裏付けもなく、生活防衛、捨てばち的な行動あるいは気分に乗って買い込んだということになる。

 家計調査によると、勤労者世帯(2人以上の世帯のうち勤労者世帯)の収入は、6月は前年同月比で6.6%減、昨年10月から9か月連続の減少だ。同じく昨年10月以降の勤労世帯の消費支出を見ると、今年3月だけ7.5%増とプラスになったが、あとはすべてマイナス。実収入が減少し消費を控える傾向は変わっていない。

 しかし、春闘の賃上げ率は連合調べで2%増、6月のボーナスは経団連調べで8.8%増、他方で非正規雇用の労働者も人手不足状況から地域、業種に偏りはあるが、時給が上昇してきている。「7月以降、消費は伸びる」という楽観論は、このあたりを根拠にしているのだが、実質賃金がマイナスの状態は今後も続く。消費マインドが大きく上向くことは考えにくい。

持続的な景気回復はあるのか

 こうした状況の中で7-9月期は、4-6月期が落ち込んだので、前期比でプラスになるだろうが、V字形に回復することはないと見ている。

 明るい材料は、企業の設備投資である。日本政策投資銀行の全国設備投資計画調査(大企業)によると、今年度も製造業、非製造業の投資マインドは持続している。製造業は「維持・補修」が中心とはいえ、高機能製品向けなどへの投資が増加の傾向にあるという。

 ただ、民間企業の設備投資の先行指標となる機械受注統計調査では、船舶と電力を除く民需の受注額は、4-6月期で前期比10.4%減となった。1-3月期がピークだった可能性もある。ということはこの先、設備投資は上向くものの秋以降、鈍化することも考えられる。

 そうなると頼みになるのは公共事業ということになる。公共事業は今年1-3月期、4-6月期と2期連続で前期比マイナスになった。出遅れの13年度補正予算に加え今年度予算分が出てくるので7-9月期はプラスに転ずるだろう。景気回復が鈍化するようなら、またぞろ秋の臨時国会で補正予算を組むことになる。


13:01

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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