日誌


2019/05/08

POLITICAL ECONOMY141号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
CCカフェ熊本「熊本の広報を考える」を開催

                    元・東海大学教授 小野豊和

 熊本地震(2016年4月)以降、被災地の復興状況などメディアの関心の高まりがあり企業における取材対応など広報の必要性に新しい風が吹いてきている。6月1日(土)日本広報学会「災害復興の現場における広報の在り方」研究会(主査:小野豊和)を拡大し、地元産業界に呼びかけ『CCカフェ熊本「熊本の広報を考える」』を開催。金融、医療、バイオ、郷土史家、舞踊関係、メディアなど21人が参加した。

 主宰者としてパナソニックでの14年間の広報経験を通じて学び実践してきた「松下幸之助の広報の考え方」を紹介。広報を学ぶ者のバイブルと言われる「タイレノール事件(1982年)」におけるジョンソン&ジョンソンの公開告知広報、対照的な「雪印乳業食中毒事件(2000年)」のお粗末な広報対応などの事例を通じて、熊本であっても組織における広報体制の確立が必要と『CCカフェ熊本』の趣旨を説明した。

 基調講演として「CC(コーポレート・コミュニケーション)・企業広報とは」について(一社)国際CCO交流研究所理事長の石橋陽氏が講演。CCの4つの機能(①企業のDNA(理念、哲学、使命)伝承②コーポレート・ブランディング③広報④広告⑤IR)をCCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)が担う。CCOには4つの役割(①ステークホルダー・マネジメント②レピュテーション・マネジメント③コーポレ―トブランド・マネジメント④イシュー・マネジメント)がある。中でもイシュー・マネジメントは危機に対する予知で、危機を予防するリスクマネジメントと起こった危機に対応するクライシスマネジメントがある。企業が災害や事故で重大な被害を受けても取引先等との重要業務が中断しない、中断しても可能な限り短い期間で再開するため、事業継続の許容限界、ボトルネックを洗い出し、復旧目標を掲げて対処する事業継続計画の作成が望まれるなど広報としての基本的な考え方を説明した。

災害から見える広報のあり方

 次に3つの話題から「災害から見えた広報の在り方」を検証。第1の話題は「被災者から見た災害直後とその後の報道について」で、東海大学経営学部長の木之内均教授が南阿蘇で経営している木之内農園の震災直後と復興状況について報告。木乃内農園は、本震で落下した阿蘇大橋の周辺に位置し地崩れもあり復旧不能に近い打撃を受けた。南阿蘇は阿蘇山の伏流による地下水が豊富な地域で村が施設した水道を利用していたが、山崩れ、道路の寸断などで水道が止まった。

 地元企業の東京エレクトロンから3000万円の援助を得て自前で井戸を掘り、農地及び近隣の住宅に水を供給しているが3年以上経っても国の支援による水道整備が為されていない。山の中腹にある九州電力の灌漑用も兼ねた貯水池が決壊し下流地域の住居が流され2人が死亡。九州電力は地震が起きる直前の住民との意見交換会で「東日本規模の地震があっても貯水池は安全」と力説したが決壊した。活断層の真上に位置していた東海大農学部は本館が3階までこわれたが、体育館を臨時避難所として提供。被災者でもある先生と学生で救援活動を行いメディアに対しては規制線を設け取材対応は一本化した。

 2番目は「復興祈念コンサートの企画運営」について、くまもと音楽復興支援百人委員会の小野裕幸氏(こどもデザイン研究所代表)が報告。震災直後に委員会を発足、被災された方々に「心が癒され、明るい気持ちになる心のケアーコンサート」を届ける「音楽の炊き出し」チームを作り3年で337回933人の演奏家と69団体を避難所や仮設住宅、学校などに派遣する活動を続けた。

 最後に「様々な地震記録誌に携わって見えてきたもの」と題し、(株)マインド代表の大村祐二氏が報告。記録し後世に残す大切さ→そこから見える教訓→そこから導き出される提言をまとめた『避難所運営の教訓と提言~新町避難所運営を通して見えてきたもの』を紹介。

 「細川歴代藩主と災害史」では、熊本城に起こった自然災害と修復の歴史を解説。現代に生きる市民は熊本地震が起きる直前まで「熊本は地震が起こらない盤石な地」と聞いてきたが、地震後は一夜にして「活断層密集地の熊本はいつ大地震が起こっても不思議でない」と大学教授など災害の専門家の考えが豹変した。災害現場でどのような事が起こり、どのように対応して来たかなど生の声を聞く機会となった。進行上の不手際からフィリーディスカッションの時間が少なかったが、参加者が当事者として自由に議論に参加する『CCカフェ熊本』への期待もあり今後は年に2回程度開催を考えていく。    


16:15

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告