ソフト化する自動車産業
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢
アメリカの著名な投資家のウォーレン・バフェットが4月に来日し、その講演で日本株などへの投資を推奨したという。その影響がどの程度のものかは定かではないが、市場で日経平均が3万円を超え、株高・債券高に沸き、上海市場でも上場する日経平均連動の投資信託が高値を呼ぶなど、話題に事欠かないことは確かのようだ。
ホンダはソフト人材倍増、トヨタも9000人再数育
ホンダは、インドのIT(情報技術)企業KPITテクノロジーズと連携して、車載ソフトウエア人材を2030年に協業先を含めて現在の2倍の1万人に引き上げると発表した。またトヨタ自動車も2025年までに9000人に及ぶ社員をリスキリニング(学び直し)して、ソフト人材への転換に力を入れる。電動化や自動運転が普及すると、車の競争力はハードよりもソフトが左石する。業態転換に近い変化を迫られるなか、各社は専門人材の確保を急いでいる。
自動車産業では、1台に搭載する電子制御ユニット(ECU)は、これまで数十個だったのが、近々では400個になる見通しで、これに伴い車づくりの工程で大転換が起こりつつある。その中身は、一言で言えば車づくりのソフト化で、それにともなって、その作業工程もソフト人材への転身に振り向けられる。
ホンダやトヨタだけではない。ドイツの自動車部品メーカーであるボッシュは世界で40万人の全社員に向けたソフト教育に取り組んでいる。自社の教育施設を整備し、ソフトウエアだけでなくデータ分析などに強い人材の育成に力を入れている。クルマの
電動化や自動運転など成長市場を開拓するための教育に注力する。
リスキリングでソフト人材を増やす
ホンダは、自社開発したホンダの基本?フト(OS)を、25年に北米で発売予定の電気自動車(EV)に載せる計画を立てている。車の「走る」「止まる」「曲がる」といった基幹機能のソフト設計はホンダが担い、プログラミング作業や実効性の検証などの単純業務は社外との連携を図る。
トヨタはソフト人材を増やすために、講座を受講したり、ブログラミングの作業や実効性を想定して、既存の製造や管理部門の社員には自動運転を担う領域に転換させる。
ソフト人材、2万1000人不足
経済産業省は自動車業界の高度なソフト人材について、25年までに年2万1000人程度不足すると試算している。業界の垣根を越えて有能なソフト人材の獲得競争は激しさを増す。 ボストン・コンサルティング・グループは、車載ソフトが生み出す利益の規模を、21年の100億?(約1兆4000億円)から25年には260億?になると見込でいる。
ソフト重視のクルマづくりで先行する米テスラは、ネット経由で高度な運転支援機能を有償で提供するスマートフォンのような事業モデルを構築している。好採算なソフト販売で収益力を高め、1台当たりの純利益はトヨタの約5倍稼ぐ。そのため、ソフトを収益につなげる仕組みづくりも重要となる。
今後、激変する自動車業界の担い手作りのためにもリスキリングの体制作りが問われるのではないだろうか。