日誌


2023/03/19

POLITICAL ECONOMY第236号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「チャットGPT」旋風に一言
              NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員  平田 芳年

 『週刊新潮』最新号(4/27日号)が「核兵器」以来の発明、「ChatGPT」は人類の「神」か「悪魔」か-との見出しを掲げた特集記事を掲載。いま、対話型の人工知能(AI)サービス「チャットGPT」(ChatGPT)がちょっとした旋風を巻き起こしている。「自動車、パソコン、インターネットが出現した時もそうだった」との意見もあるが、識者からは「「インターネットの登場を超えるようなインパクトがある」(松尾豊東大教授)との指摘が出ており、進展するIT社会の有り様を左右する大きなテーマに浮上している。

 米新興企業『オープンAI』が開発した「チャットGPT」は昨年11月に無料公開を始め、利用者はわずか2ヶ月余りで世界で1億人を超えた。利用者が質問や指示を入力すると蓄積している膨大なデータから自然な文章を出力する「生成AI」の一つで、米科学誌サイエンスなどによると、チャットGPTを『共著者』として論文を投稿する研究者も現れたという。

「作文指導が成り立たなくなる」

  「例えば、チャットGPTに夏目漱石『こころ』の感想文を作るよう指示すると、『葛藤や苦悩を抱える人がいることを知り、相手を理解する大切さも学んだ』といった文章が瞬時に作られる。出来上がった文章がAI作成のものかの判別も難しく、教育現場からは『作文指導が成り立たなくなる』(東京都内公立中校長)などの声が出ている」(読売新聞)。このため、専門家からは「AIの安易な利用は、論作文や探究学習などの思考力や表現力を養う教育に悪影響が及びかねず、文科省は適切な指針策定を急ぐべきだ」(益川弘如・聖心女子大教授)との警告が出されている。

 海外でも同様の懸念が指摘され、ニューヨーク市は「学習への悪影響と、コンテンツの安全性・正確性に対する懸念」を理由に、所管する学校の端末やネットワークからのアクセスを禁止、イタリア政府は利用者の個人情報保護への懸念から利用の一時禁止を発表した。米企業が誤情報をもとにチャットGPTに文章を作成させたところ、100件中8割で誤情報を含んだ文章が返ってきたとの研究結果もある。

 こうした課題が指摘される一方で、従来型ネット検索は単語を入力、表示ページを読む必要があったが、「チャットGPTは対話形式で手っ取り早く聞けるのが最大の利点。色々な場面で活用してみたい」との声は広がる。総務省や経産省など政府機関や企業でも通常業務にチャットGPTの利活用に積極姿勢を示しており、日本では総じて「規制より推進」の空気が強い。AI機能のさらなる進化で、改善が進み、企業活動や社会活動で欠かせないツールとなるのは間違いない。しかし手放しで喜べるのか。

 もう少し大きな枠組みでこの「チャットGPT」を考えると、IT空間につきまとう漠然とした「不安や恐れ」の感覚がある。一例を挙げると、AIが学習するインターネット上のデータの問題だ。著作権や個人情報問題はひとまず置くとして、米企業が開発したことで、データが英語圏に偏るために生じる「言語バイアス」の問題が指摘されている。欧米の言論データは中国やロシアに批判的なものが多く、西側の文化を反映し、生成される文章もその傾向を帯びる。突き詰めれば、「生成AI」の開発企業(主にGAFAなどの巨大プラットフォーマー)が一定の意図をもってデータ操作を行える余地があるツールだ。

想定外の事態を念頭に対処策を

 さらに、膨大なデータを蓄積し、「生成AI」に仕上げる複合技術を開発する能力を有するのは巨大IT企業に限定され、そのビジネスモデルから生み出される巨額の利益、市場支配力、圧倒的な社会への影響力などを行使することで、「勝者総取り」、「絶望的な格差の形成」、「民主主義への破壊的作用」など人間社会の健全な発展に悪影響を及ぼす事態に歯止めがかけられなくなる恐れが強い。

  「生成AI」は人間と対話すればするほど情報量が増え、学習して、より“賢く”なっていくという技術的特性を持つ。このため近未来では、「人間の代わりに調べものをして文章を書いてくれる便利なツール」という領域から、音声、画像を含む新たな分野を次々に開発し、フェイク映像、偽動画から自律型致死兵器システム開発へとその翼を伸ばし、AIが生成した小説の芥川賞受賞など社会に深刻な影響を及ぼす想定外の出来事も懸念される。より公平で、民主的な社会を維持していくためには、こうした想定外の事態を念頭に置いて対処方策を検討しておく必要があるのではないか。広島サミットに向けて、G7デジタル・技術相会合で「責任あるAI」を共通認識に、AI技術が国民監視や偽情報の拡散、民主的価値、表現の自由、人権を脅かすために悪用されることを防ぐ共通の基準づくりを国際社会に発信する方向だという。歓迎したい。

 ところで、このコラム文章は「チャットGPT」を使って作成したわけではありません。念のため。


09:43

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回の研究会は決まっておりません。決まりましたらご案内いたします。

 

これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告