日誌


2017/10/15

POLITICAL ECONOMY 第104号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
多文化共生に向け外国人労働者受け入れ進める自治体

                                                労働調査協議会客員調査研究員 白石利政

 総務省は、在住外国人が200万人に達した約10年前、「多文化共生推進プログラム」を立ち上げ、「多文化共生の推進に関する研究会報告~地域における多文化共生の推進に向けて~」を公表した(2006年)。各自治体は、外国人居住者が増えるなか、総務省の呼びかけもあって各自治体の事情を反映した多文化共生推進プランを策定している。私は身近なところで、外国人労働者との「共生」を打ち出している出雲市と安芸高田市のプランと最近の動きに興味を持った。

5年以上継続居住外国人の割合を30%台へ-出雲市の事例

 「縁結びと神々の都」出雲市のプランは2016年度~2020年を計画期間としている。2015年12月末の外国人登録者数は2,744人(市の総人口の1.57%)で、ブラジル(1,756人)が6割を超え、これに次いでいるのが中国(364人)とフィリピン(184人)である。在留資格別中の永住者は686人、定住者は950人、技能実習生は376人である。

 このプランには計画期間終了時に「引き続き住んでいる(5年以上)外国人住民の割合を30%台」にするという数値目標がある(実数では732人以上で達成)。3年で帰る技能実習生は除かれ、目標の達成はブラジル人の動向にかかっている。ブラジル人約1,500人が出雲村田製作所で、請負会社2社の従業員として働いている。うちの1社が(株)アバンセコーポレーションである(「朝日新聞」2017年4月20日)。

 市のプランには「外国人労働者の受け入れ企業の社会的責任」として、労働関連法令の遵守や、労働者の生活環境、家族の教育など私生活への配慮、派遣先等も含めた社会的責任を求めている。「共生」プランの成否に、外国人労働者を受け入れている企業の役割の大きいことからの要請であろう。先の(株)アバンセコーポレーションは、市のプランに先立つ2014年度に「製造請負優良適正事業者」としての認定を既に取得している。そして、この9月には外国人の生活に関する相談対応を中心に行政、学校、地域社会との懸け橋となることを目指し、「しまね多文化コミュニティ支援センター」をオープンしている。市のプランの目標達成へ向け積極的に対応している。

技能実習生にいい思い出を、いつか定住を-安芸高田市の事例

 安芸高田市は広島市の中心部からバスで約1時間、中国山地に入った毛利元就ゆかりのまちである。安芸高田市のプランは2013~2017年度を計画期間としている。プランが公表された2013年の外国人登録者数は585人(市の総人口の1.59%)で、中国が2008年にブラジルを抜いている。在留資格中の永住者は143人、定住者は38人、技能実習生は299人(その大半は中国からの207人)である。

 当市のプランでは「外国人市民」に「永住者」や「定住者」だけでなく、「研修生や技能実習生を含む」と明記し、企業・商工会に研修生活を行ううえでの配慮を求めている。

 これには、浜田市長の思いが込められているようだ。「人口が減少していく過程で、現在の生活水準と地域社会の安定を維持するのは非常に困難です。そのために、海外からの人材を組織的に受け入れる体制を構築する必要があります。しかし、現在の日本では移民を積極的に受け入れる体制は出来ていません。市に多く住んでいる、技能研修生は3年後には本国へ帰らなければなりません。日本に慣れ日本語や仕事をマスターしても、永続的に日本で働くことはできないのです」(市長コラム第92回「安芸高田市 人口減対策の課題」『広報あきたかた』2016年4月号)。「3年で帰らなければならないが、それでも
『安芸高田でいい思い出を作って帰ってもらいたい』と、ファン作りをしている。これは近い将来、定住外国人を受け入れるべく国も制度を変えざるを得ないとみているからだ」(友森敏雄「広島の過疎の町が外国人との共生を選んだ理由」『WEDGE REPORT』2017年5月22日)。いずれ、まちづくりに外国人を必要とし、一方で外国人に選ばれるまちづくりが求められると、みている。

 外国人労働者の受け入れは「『単純労働者は不可』と表玄関に掲げながら、脇のくくり戸(サイドドア)を開」いている(宮島喬/鈴木江理子「外国人労働者受入を問う」岩波ブックレット No.916)。このサイドドアから、日本人との「血」のつながりを根拠に日系3世に定住資格が認められて27年、『国際貢献』をタテマエにした外国人技能実習制度が始まって24年。人手不足が顕在化するなか、このドアはさらに押し広げられようとしている。それだけに市民としての受け入れの必要性が増している。「多文化共生推進プラン」づくりは、外国人の日本文化への統合ではなく国籍や民族の異なる人々との、多文化共生を唱っている。両市の経験は、外国人労働者との「共生」を推進するうえで、貴重な経験の積み重ねとなり、今後の課題をいっそう明らかにするものと思われ注目していきたい。


12:49

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告