日誌


2023/12/03

POLITICAL ECONOMY第252号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
ビッグモーター、ジャニーズ、日大
リスクマネジメント問われる相次ぐ不祥事

                               金融取引法研究者 笠原一郎

 早いもので年が明け2024年となった。コロナで閉ざされた3年間から、ようやく抜け出したかと思えば、裏金疑惑の自民党だけではなく、23年のテレビで流れたワイドショーの“ネタ”には、ビックモーター、ジャニーズ、日本大学そして宝塚歌劇団と、後ろ向きの話しか出てこないのではないかと思えた。これらの社会的に関心の高い組織の不祥事はマスコミメディアで大きく報じられ、組織のリスクマネジメントが問われるとともに、なんとも不快な気分にさせるような事案に明け暮れた1年に思われた。

第三者委員会の報告を受けても・・・

 これらの不祥事事件を引き起こした組織は、多くのケースでは、著名弁護士をリーダーとする第三者委員会の立ち上げや利害関係のない法律事務所にそれらの不祥事の事実関係の調査を依頼する。調査結果を踏まえ、こうした組織はその社会的信頼の回復と法的なマイナス影響をできる限り縮減させるため、リスクマネジメントとして様々な方策をとる。すなわち当該不祥事の責任の所在を明確にするとともに、被害救済と再発防止策等を策定し、公表・説明することとなる。上記の各件での会見は、いずれもテレビで生中継されたが、その会見場においては、事態の隠蔽ともとられかねない組織責任者たちの姿勢や、会見を仕切る広告会社・顧問弁護士の稚拙さ、そして質問するマスコミ側の質の低さが露呈されるものであった。

 ここで、これらの不祥事事件を改めて振り返ってみると、まず、ビックモーター(BM)不正請求事件は、修理費の水増しによる保険金の不正請求の疑惑から、損害保険会社の要請を受けた第三者委員会による調査の報告、そしてBM社の創業オーナーである前社長の記者会見のテレビ中継では、失言等もあり大きな批判を受けた。

 故ジャニー喜多川による多数の少年たちへの性加害の問題では、一部週刊誌では被害者たちの告発から問題として報じられてはいたが、長年にわたって日本のメディアが無視してきたこの性加害の問題が、BBCの調査報道により国連人権委員会までもが動くに至った。こうした状況を受けた旧ジャニーズ事務所の依頼による第三者委員会の調査報告では、半世紀以上の長きにわたって数百人以上の少年たちへの性加害という驚愕の実態が明るみになった。

 また、所属する一部の学生が違法薬物を使用した日本大学アメリカンフットボール部の事件では、大学の管理者への通報と大麻の確認時点から警察への通報までに2週間近く留め置かれ、検察出身の前副学長による隠ぺいとしか思えない工作の組織的関与が疑われた。この事件の以前、同じ日大アメフト部の悪質タックル問題に端を発した大学ガバナンス改革のために乞われて就任した作家理事長に対しても、管理対応の稚拙さに内部外部から批判が集中した。

 そして、宝塚歌劇団の若い団員が陰湿な“いじめ”・過酷な労務環境により急逝したという悲痛な問題での記者会見では、大阪の大手法律事務所が主体となって調査したとされる報告書を、その親会社である電鉄会社の役員でもある歌劇団理事長はあたかも他人事のように読み上げるのみであり、華やかな舞台とはかけ離れたものを見たように感じられた。

組織の傲慢さと醜態さらすメディア

 実際に、BM社の件では、他人事のような前社長の姿勢がテレビ視聴者には共感を得られず、更に、各店舗前の街路樹枯木・伐採疑惑(器物破壊容疑)、BM社と親密な一部の損害保険会社による不適切な事故査定等の疑惑と、次々と問題が噴出してきた感がある。

 また、ジャニーズ性加害では、調査報告書の内容と旧ジャニーズ事務所としての対応を説明するために設けられた2回にわたって記者会見が設けられたが、事務所側の認識の甘さと質問するマスコミ側の質の悪さから混乱をきたし、宝塚でも事実関係から目をそらした歌劇団幹部たちの責任回避と組織防衛に終始していた。こうした会見で生中継されたテレビ画像では、マスコミサイドも醜態を晒したとしか思えなかった状況であり、特に、ジャニーズ性加害に対する長年にわたる“メディアの沈黙”と第三者委員会報告書で批判されたNHKをはじめとするテレビ各社は、自主検証と称する番組の放送と、旧ジャニーズ事務所所属のタレントたちを出演から排除することで、事態の鎮静化を図っているようさえ思えた。

 これらの記者会見では不祥事行為の当事者でなく、管理監督責任を問われた者により説明されるが、肝心な時には沈黙し落ちたものは徹底して叩こうとするメディア・マスコミによって、一方的に追い詰められる姿があった。いずれのケースもそれまでの組織の傲慢さが問われたものではあるが、一方において、テレビの前の私たちも、感情的で低質なメディアに振り回されなることなく、事実を冷静に認識したうえで、被害の救済、組織の再建を見守っていこうというスタンスを持ち得なければ、弱りつつそして寛容さを失いつつある日本の社会がますます委縮していってしまうのでは、と自戒するところである。                        


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メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回の研究会は決まっておりません。決まりましたらご案内いたします。

 

これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告