寒川町の13年度決算から見るアベノミクス
神奈川県寒川町議 中川 登志男
市町村の議会は、3・6・9・12月に会期がひと月程度の定例会を開会するのが一般的で、3月議会は来年度の予算、9月議会は昨年度の決算の審議が主な内容となる(ただし、決算の審議は10月という議会も多い)。
私が所属する神奈川県寒川町議会も、この9月議会のメインは昨年度(13年度)の決算の審議だが、決算を見ていると、アベノミクスが地域経済にどのような影響を与えているのかが読み取れて非常に興味深い。
寒川町は、約13平方kmの狭い面積に大企業の工場が多く集まっており、製造業がもたらす法人町民税で町の財政は豊かであった。12~13年度こそ財政状況の悪化で地方交付税(普通交付税)の交付団体となったが、それまでは30年以上にわたって不交付団体を維持してきた。
法人町民税のここ10年間の推移を見てみると、リーマンショック以前の04~08年度は毎年度12~13億円の歳入があった。しかし、09年度は5.3億円にまで落ち込み、10~12年度も7~8億円程度で伸び悩んだ。
最新の13年度決算では、法人町民税は7.3億円となった。09年度の5.3億円よりはマシだが、12年度の8.2億円と比較すると0.9億円の減である。アベノミクスの効果は、ここにはうかがえない。
設備投資は控えられている
一方、寒川町の町税で最も歳入が大きいのは固定資産税である。景気の動向に左右されやすい法人町民税や個人町民税とは異なり、ここ10年間で見ても毎年度40億円台半ばで安定しており町の基幹税でもある。
固定資産税を「土地」「家屋」「償却資産」の3つから見ると、土地については04~13年度の10年間、毎年度19億円台の歳入で安定している。家屋も12~14億円で推移しており、上下への振れはあまりない。
ところが償却資産は、04~09年度は10~11億円で安定的に推移していたのが、10年度は8.7億円となって10億円の大台を割り込み、11年度の9億円、12年度の8.6億円となって、最新の13年度は8.4億円にまで落ち込んだ。
町の財政当局の説明によると、企業の設備投資の手控えが主な要因であるという。リーマンショック直後に比べれば、最近は企業も設備投資の余裕が出てきていると町の経済産業部局から聞いていたが、13年度決算からはその傾向は読み取れない。
ところが、大幅に歳入が増加した項目がある。「株式等譲渡所得割交付金」である。この税金は、一定の特定口座における上場株式等の譲渡による所得等の金額に対して課税されるもので、その税収の約6割が市町村に交付される。
リーマンショック以前の05~07年度こそ、毎年度2千万円台の歳入があったが、08~12年度は400~500万円程度の歳入にとどまり、あまり目立たない交付金であった。
ところが13年度決算では、リーマンショック以前の数字を上回る約4800万円となって、約430万円だった12年度の10倍以上となった。13年度は株の取引が前年度までよりも活発化したことが、自治体の歳入面にまで現れたのである。
なお同様の理由で、12年度は約1600万円だった「配当割交付金」が、13年度決算では約2700万円まで上昇している。
交付金とはいえ、厳しい町の財政にとっては新たな収入の誕生とも思えそうだが、町の財政当局の見方はつれなかった。アベノミクスに批判的な議員が決算審議で、「これは一時的なものであるから、来年度の予算編成ではアテにすべきではない」と指摘したところ、財政当局もそれをあっさり認め、「これらの交付金の伸びは来年度予算編成には反映させない」と答弁したのである。財政当局も、株高にあまり多くの期待はしていな
いということだ。
これらは13年度決算、つまり昨年4月から今年3月までの話であるから、今年4月以降の動向までは反映されていない。だが、12年末に発足した安倍政権が進めてきたアベノミクスは、この13年度がいわば元年(度)である。アベノミクス元年(度)は、寒川町の決算状況を見る限り、地域経済に悪い影響も与えなかったが、良い影響も与えなかったと言える。
各自治体で次々に発表される13年度決算状況をつぶさに見ていけば、より正確なことが分かるのではないかと思われる。