落ち込む中国経済のファンダメンタルズ
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田芳年
為替や株価が急変動に見舞われる、乱高下すると、「市場が神経質になっており、ちょっとしたデータに反応しただけ。一時的な動きで、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に大きな変動はなく、いずれ収まる」とする紋切り型の市場関係者のコメントを新聞、雑誌メディアなどでよく見かける。比較的当局寄りのエコノミストや経済専門家に多いが、要するに「余り大騒ぎするな」と言うご託宣。では6月末から8月にかけて中国市場を揺さぶった、通貨切り下げ、株安、景気減速懸念とそれに連動した世界同時株安の動きはどう解説されるのだろうか。
なぜ中国の株価は突如、変調を来したのか。きっかけは外国人投資家(ヘッジファンド)による中国株の大量売却と見られている。門倉貴史BRICs経済研究所代表によると「これまで外国人投資家の中国本土株への投資は認められていなかったが、株式市場の活性化を狙う中国政府は昨年11月、香港市場を経由すれば外国人投資家であっても中国本土株への投資ができるよう制度変更を実施した。その投資マネーが中国株式市場に大量に流れ込み、上海総合株価指数を押し上げた。しかし投資マネーは逃げ足が速く、中国株の値動きがファンダメンタルズを反映していないと判断するや一気に売り逃げて巨額の売却益をつかんだ。投資マネーの流失で株価は急落した」(「株式新聞」8月14日付け)という。
事実、上海と深圳(せん)の両証券取引所は7月31日、米ヘッジファンド24社の売買を3カ月間停止、違法な先物取引を理由に7名を逮捕する異例の措置を講じた。昨秋から4回の利下げ、預金準備率の引き下げ、8月の人民元連続切り下げや政府系機関を動員した株価対策の導入などと組み合わせて考えると、中国経済に何らかの大きな変調が押し寄せているのではないかとの見方が浮上するのは避けがたい。
8月20日付け「日本経済新聞」経済教室で「中国政府は2015年の経済成長率目標を7%前後としている。国家統計局によると第1四半期(1-3月期)の成長率は7%、第2四半期(4-6月期)も7%だった。これは果たしてまったくの偶然なのだろうか」(柯隆富士通総研主席研究員)との疑念が報じられた。日本の四半期GDP速報を見ても0コンマ以下の数字が公表されるのが常で、2期続けて切りの良い数字となると、何らかの意図を感じる。
着地点は見えない
中国経済のファンダメンタルズに何が起こっているのか。通常、ファンダメンタルズとは、一国の経済成長率、物価上昇率、財政収支などの経済指標を総合して検討されるが、経済への国家関与が大きな中国の場合、政府の経済、財政運営の方針変化が大きく影響する。2013年に習近平政権が打ち出した「新常態への移行」がその変化の核心を表現している。投資・輸出主導の経済成長から内需・民間主導経済への転換と成長スピードのスローダウンが新常態の中身だが、進行する事態は国有企業の肥大化と国家の市場介入という後戻り。それに腐敗摘発による経済活動の萎縮が市場の攪乱を増幅している。
8月下旬以降の世界同時株安の連鎖は中国の景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)が6カ月連続で50を下回り、6年5カ月ぶりの低水準に落ち込んだことがきっかけ。7月の新車販売台数が7.1%減と4カ月連続して前年割れとなり、頼みの輸出も8.3%減と振るわない。供給過剰問題を抱える粗鋼生産は今年1-6月が前年同期比1.3%減少、同期間のエネルギー消費は0.7%増と僅かな延びに過ぎない。世界同時株安はこうした変化を読み込んだ上で始まった逆回転ともいえよう。経済の先行指標ともいえる世界の株式市場は落ち着きを取り戻しつつあるが、中国経済の着地点はまだ見えない。