影響高める中国地方高速道路ネットワーク
労働調査協議会客員調査研究員 白石利政
昨年の12月の雪の日、島根県で用事があり出雲市駅で待ち合わせた。広島から岡山経由の鉄路で出かけ、出雲から松江自動車道と中国自動車道を使い陸路で戻った。行きは運行の正確さを考え鉄道を利用したが帰りは気分を変えバスを利用した。両者を比べると、バスは鉄道より所要時間で45分、乗車時間で29分短く、料金も指定利用で6,500円、自由席利用で5,510円安かった。中国山地を横断する陸路の利便さを実感した。
2つの縦貫道と4つの横断道
現在、中国地方には高速道路として2つの縦貫道(中国縦貫自動車道と山陽自動車道)と4つの横断道(姫路鳥取線、岡山米子線。尾道松江線、広島浜田線)が整備されている(このうち尾道松江線は新直轄方式で建設され一部区間を除き無料)。高速道路の効果は大きい。「中国地方の約8割の観光入込客が自動車もしくはバスを移動手段として利用……中国地方を発着する高速バスは、平成元年の269便に比べ平成26年には1,277便と約4.7倍に増加」した[伊藤努(2014)]。
道路開設は地域住民の生活をも変える。松江自動車道の開通効果と在来の国道54号沿線への痛手についての興味ある事例を目にした。
開通効果の一端は庄原市で2013年4月オープンした「道の駅たかの」でみられる。この道の駅は高速バス、高域路線バス、予約型区域内運行バスの結節点となり、地域の特産物の販売拠点として集客力を高めている。これにともない高野地域では加工グループや会社組織による45人の雇用が生み出され、「道の駅たかの」の指定管理者、株式会社緑の村は61人(正社員14人、契約社員6人、パート社員28人、アルバイト13人)の雇用を創出し、若年層の定住対策の一助ともなっている
[(岡村幸雄(2014)]。
これに対し在来道路では交通量が半減し、沿線区間の店舗の利用者減は売上減、経営悪化につながり、住民の生活必需品の購入がより遠隔化、生活の利便性の低下、ひいては過疎化も懸念されている。集客力の回復への地域ぐるみの待ったなしの取り組み課題となっている[有田昭一郎(2014)]。
地元産品・サービスのブランド化で「吸客」力を
集客力を高めるため地元産の商品や観光やサービスの「ブランド」化が重視されている。この外来語、「特に名の通った高級な銘柄を連想させる」(中村明著「日本語語感の辞典」岩波書店)とある。
「ブランド」という点で2つのことが思い浮かぶ。ひとつはビールの話。日本で地ビールブームが起こった頃、チェコのクトナハラにある地元民に愛されている小さなビール工場を訪ねた。日本のビール工場を見学したこともある醸造担当者は「日本のビールは機械化され、品質管理が行き届き量産されている。われわれのビールは自然の力をかりながら人間が作っている」と話していた。ビールを飲むさい時々思い出す。もうひとつはチーズの話。スペインのアストゥリアスの山からの帰り道、地元で評判のチーズを手に入れたいバスクの友人は、私を車においたまま、酪農家と40分近く粘った。しかし、値段が折り合わず交渉は決裂。頑固な生産者とタフな消費者がこのチーズの評判を支えていると感じた。
広島県では、2つの縦貫道と広島県内の市を起点とする横断道路に東広島呉自動車道(2015年全通)がつながったことをもって#(イゲタ)状の高速道路ネットワークが完成し、地域はもとより港や空港との一体化による海外との取引や観光、さらには大災害時の緊急輸送道路としても期待している(広島県のホームページ)。
この高速道路ネットワーク、なによりも沿線住民の暮らしと折り合いをつけ、機能するものであって欲しい。そして沿線地域から、集客を超え「吸客」する力をつけた、地元の人にも愛される、ブランド品が日の目を見ることを願っている。
※参考にした伊藤努(2014)「高速道路の整備効果とNEXCO西日本の取り組み」、岡村幸雄(2014)「松江自動車道開通が生み出した小さな経済循環」および有田昭一郎(2014)「国道54号沿線における尾道松江線開通の影響と地域活性化の方向性」は、いずれも「季刊 中国総研 2014 vol.18-4 NO.69」(公益社団法人中国地方総合研究センター)掲載論文である。