支えられて地域で暮らす権利―選択肢は多いほど良い
街角ウォッチャー 金田麗子
北海道の社会福祉法人「あすなろ福祉会」のグループホーム(以下GHという)で、20年以上前から、結婚や同居を希望する知的障がい者に、不妊処置を提案し8組16人が受けていた問題が明らかになって衝撃をもたらした。
ではGHにおいて障害者の子育て支援を想定しているかというと、戸惑いがあるのも事実だ。共同通信が、日本グループホーム学会を通じて行った調査でも、結婚出産子育てを「支援している」という回答は2割だった。支援ハードルの最多7割が、「職員の人手」問題。「職員や家族の理解」もあるが、「居室の広さなどハード面」、「資金面の問題」なども大きな要因だ。
GHは障害者総合支援法に基づき、「原則18歳以上」の障がいがある人が、地域で支援を受けながら自立生活を送ってもらうことを目的に、成人が個室で生活することを想定し、少人数で共同生活を営む制度である。運営側は利用者のニーズに応じて、食事や入浴などの生活上の援助を行っている。一戸建てや賃貸マンションなど様々な形態があり、原則入居定員は2人以上10人以下で個室である。厚生労働省によると、GHの事業所数は全国約1万1000で、約16万人が利用している。
グループホームで子育てを想定した規定はない
厚労省は1月の通知で養育支援のため障害福祉サービスや子育て支援施策を最大限活用するよう要請しているだけで、GHの入居要件から外れる子どもの位置づけは不明確なまま。障がい者向けに特化した育児支援制度もなく、GHの育児支援のコスト負担についても整理されていない。
日本グループホーム学会荒井隆一代表も「寮や下宿のような形態で共同生活を送っているケースが多く、子育てが物理的に困難な場合もある。自分で借りた物件での支援の提供など選択肢を増やしたうえで、GHの在り方を抜本的に見直すべき」と述べている。(「東京新聞」23年2月24日付け)
私の職場であるGHは7名定員。元社宅の二階建ての3棟を繋いでいて、それぞれの個室に3人、2人、2人が居住している。各棟に台所、リビング、風呂、トイレが付いていて、共同利用している。
居室は個室ではあるが、共同生活部分も多く、時に大声を出す利用者や、不安定になる利用者もいて、このGHの形態では、希望者がいても出産子育ては無理だろうと思う。
現在3人が結婚を希望している。彼らの希望はGH外に居室を構えることである。そのために就労や貯蓄金銭管理などの相談支援をおこなってきた。
これまでも、個別支援計画の中で、全員に一人暮らしを目指して施設を出るための準備支援をしてきているので、結婚出産もGH内ではなく、転居による支援を目指す方がよいと思ってきた。
出産育児の支援を行うグループホームもある
しかし今回の事件を受けての報道で、出産育児の支援を行ってきたGHのケースを読んで考え直した。選択肢はたくさんあった方がよいと思えたからだ。
神奈川県茅ケ崎市のNPO法人「UCHI(うち)」のGHは、20年前から6家族の子育て支援をしてきたという。子育て支援はGHのサービス外なので、地域の保健師や行政の子育て関係の窓口とつないで支援を受けられるように尽力。GHは家計管理や相談助言を行ってきた。現在は4歳、0歳の子育てをしている男女夫婦をサポートしている。
夫婦はNPO法人がGHとして運営している賃貸マンションの一室で生活している。子どもともども毎日法人事務所のある一軒家に立ち寄り、他の利用者たちと一緒に食事をしている。「結婚や子育ては自立した人のみに許されるという価値観が、障がいのある人の願いを阻んできた」と、牧野賢一理事長は言う。当事者は、生活上の相談に乗ってもらえる職員がいることが安心と話す。(「東京」、「朝日」、「読売新聞」2023年2月)
信頼できる職員や団体の長期的支援が安心を与えていると言えるが、法人の負担が大きく、国の財政的支援が不可欠なことは言うまでもない。
そもそも厚生労働省は一人暮らしを希望する障害者が、地域で暮らせるよう障害者総合支援法を改正。一人暮らし定着のために、グループホームを退去した後も、「一定期間」GHの事業者が相談支援に対応するよう求めている。
社会福祉法人「東京都手をつなぐ育成会連携型大田」の朝熊貴史施設長は、「『一定期間』ではなく、特性に応じた継続的な支援が必要」、「『一定期間』後もどこにつなぐのか。GHがずっと退所者を支援するのは難しい。地域で一人暮らしを支援する体制が求められる」と述べている。(「朝日新聞」23年2月7日付け)
障がい者が、結婚、出産、子育てを希望することは、支援を受けながら地域で生活していくことの一部として当然だ。だからこそ、対応できるGHの在り方を、ハード面も含め検討し、支援者を含め長期的に支えるための財源支出こそ公助の最たるものとして国の責務だと思う。