日誌


2023/08/09

POLITICAL ECONOMY第246号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
熊本市と仏エサンプロバンス市友好都市契約10周年記念行事に参加
                                 元東海大学教授 小野豊和


 熊本市とフランスのエサンプロバンス市が友好都市契約を結んで10年。5月末にソフィー・ジョワサン市長以下4名が熊本に来られた。熊本城に三色旗カラー照明をあてて歓迎。熊本城、水前寺公園、阿蘇などを案内したが、特に先進的な小学校の取り組みに注目。一人ずつタブレットを持ったDX教育とグループ学習に興味を持たれた。阿蘇山の伏流水が水源の熊本市では、飲み水もお風呂も同じ水と聞き驚いたとも言われた。歓迎レセプションでは、能楽師・狩野了一師が能を披露。熊本市最終日には熊本日仏協会の少人数の仲間と密なお別れの会を開催し再会を誓った。

 9月15日から、ラグビーワールドカップ観戦を兼ねてエクサンプロバンス市を訪ね歓迎を受けた。まず市長舎を訪問。二階の貴賓室には市の職員だけでなく、エクサンプロバンス市のラグビーシニアチームメンバーも参加。盛大な歓迎を受けた。ジョワサン市長と再会の約束を果たし、以下来熊の御礼を述べた。

『星の王子さま』の翻訳者・内藤濯は熊本出身

 140年前の1883年に熊本で生まれた内藤濯が、東京に出て第一高校(後の東京大学)でフランス語の学び、1922からパリ留学中に、初めて能舞台を成功させ、レジオンドヌール勲章シュバリエを受章した。1943年にアメリカで出版されたオリジナルの『Le Petit Prince』を手に入れるが、リズミカルな文章に触れた『チボー家の人々』を翻訳した山内義雄から内藤君以外に相応しい翻訳者はいないと推薦を受け、『星の王子さま』として岩波少年文庫から出版する。日本では老若男女に親しまれ600万部を越えるベストセラーとなる。

 『星の王子さま』は平和を願う書で、バオバブの根がからみついた地球の絵は、当時の枢軸国(日独伊)の覇権争いを示し、第二次世界大戦勃発の原因を象徴している。翻訳手法は部屋に籠もって辞書片手に行うのではなく、大声でフランス語を読み上げ韻を確認し、相応しい日本語を思い浮かべる。日本語文案が決ると、今度は大声で日本語を繰り返し読み上げ韻を確認する。こうして内藤濯が生まれ育った熊本弁で強調される訳文が完成する。2005年、著者サンテグジュペリー没後60周年に、熊本日仏協会として県立図書館の庭に「星の王子さま・内藤濯記念碑」を建立。さらに2019年に日本郵便が二種類の「星の王子さま」記念切手を発行した…。(以上をレセプションの挨拶で述べた)

 今回、エクサンプロバンス市の歓迎に対して、記念切手を入れた額と日本語版『星の王子さま』(岩波少年文庫)を贈呈した。1992年に熊本市在住の能楽師・狩野丹秀師(故人)がエクサンプロバンス市に総檜の能舞台を寄贈した。市の中央部にある日本庭園を訪ねると、「テアトルNO」の標識の奥の大きな建物の中に能舞台が鎮座していた。まさに熊本市とエクサンプロバンス市が友好都市として手を結ぶきっかけとなった現場だ。

印象派画家ゼザンヌが生涯を過ごした地

 エクサンプロバンス市の人口は15万人で三分の一の5万人は全国や世界から集まった大学生(留学生)。来熊の時、大西市長とのトークセッションで、ジョワサン市長は「子育てがしたくなる街づくり」について話された。教育面では文化を尊重する姿勢があり、社会福祉も充実していて、子育てに対する施策も素晴らしい。印象派画家ゼザンヌが生涯を過ごした地で、不朽の名作「ヴィクトアー-ル山」が聳える小高い丘はロゼワインの産地でもある。

 南仏のプロバンス地方の中でも水が豊富で、AIX-EN-PROVENCEのAIXとはアクワ(水)を意味し、地下に多くの水源があり、阿蘇の伏流水が熊本市民の水道になっているのと同じように水に恵まれている。プロバンス地域は独立心が強く、フランスでありながらフランスでないとも言われる。マルセイユ港から見える標高160メートルの丘にある守護の聖母教会は、第二次世界大戦でドイツ軍の砲撃を受け、壁には1944年8月15~25日に砲弾を受けた傷跡が残っていた。

 熊本のシニアチームとのラグビー友好試合はフランスチームの公式練習スタジアムを使わせていただいた。ピオリーヌ城での歓迎晩餐会ではプロバンス地方の収穫祭の踊りを披露。日が変わるまでフルコースの食事を楽しみながら歌っ

たり友好を確かめ合った。今回の歓迎に対して市から4000ユーロ(60
万円強)の助成をいただいた
。ニーススタジアムで開催の「日本・イング
ランド」戦を観戦。公式発表の観客3万500人
の半分は日本チームを応援する赤
縞のシャツで熱狂的な応援合戦に参加したが12対30で大敗、善戦むなしく…残念。(写真参照
 なお、今回の訪問はプレイベントで、9月末から大西市長を中心に市議会メンバーなどがエクサンプロバンス市を正式訪問する。



17:24

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回の研究会は決まっておりません。決まりましたらご案内いたします。

 

これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告