日誌


2015/02/21

「グローカル通信」第14号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
インターンシップは、社会の“程”を知る絶好の機会

                                                                  東海大学教授 小野豊和

  3月1日、経団連の指針を受けて平成28年卒業生に向けた採用広報活動が解禁された。

 平成25年4月に開催された「経済界との意見交換会」で安倍総理から経済界に対し平成27年度卒業・修了予定者から就職・採用活動開始時期変更との要請を受けてのことである。企業への拘束力のない新ルールのためか、熊本県下でも既に内々定を出した企業が噂されている。「短い就活、職種選びに不安!」という新聞見出しも散見されるが、果たして就職戦線は如
何に?

[経団連の就活の指針の概要]

 一方、政府は卒業・修了前年度の夏季・冬季休暇中に行うインターンシップ、地元企業の研究やマッチングの機会の拡大を始め、キャリア教育から就職まで一貫して支援する体制強化を打ち出している(我が国の人材育成強化に関する対応方針「大学等の就職・採用活動問題を中心に」平成25年4月22日)。

 就活期間の短縮を訴えつつ、キャリア教育から就職まで一貫した体制強化要請は大学を専門職業教育の現場にしようとの意図とも取れる。「インターンシップは学生の就業体験の一部で採用に直結するインターンは禁止する」と言いながら、企業の採用担当からするとインターンシップは人材を見極める好手段との意味合いを否定できない。 

インターンシップは、熊本でも大きな成果

 熊本では平成18年に県下14の大学・高専等と熊本県・熊本市、さらには7つの経済団体が協力して高等教育機関等の教育・研究の充実を図ると共に、地域の自治体や産業界と連携しながら、地域の教育・文化の向上・発展に貢献し、あわせて熊本の教育環境の向上に寄与することを目的に一般社団法人大学コンソーシアム熊本を設立した。研究面の連携からスタートしたが、学生を社会に送り出す大学等の地域連携の手段として平成22年にインターンシップ運営委員会を設け学生の受け入れ・指導の窓口を開設した。

 次代を担う学生が県内の企業・団体等の職場において、短期間の就業体験をすることにより、地域経済や企業活動への理解を深め、就業意識の醸成・向上の支援を行うことを目的に夏季・冬季におけるインターンシップを始めた。5目を迎えた平成26年は580人の希望者の中から375人(男116、女259)が就業を体験。女性の割合が69%で積極性及び職業意識の高さが窺える。業種としては、建設・不動産、製造(食品・機械)、情報・通信・マスコミ、出版・印刷・広告、運輸、卸売、小売、金融・保険・証券、飲食・宿泊、医療・福祉、教育、サービス、旅行、官公庁、専門技術・サービス、非営利組織など幅広い。

 インターシップに参加する意義は「実際の仕事に触れることで自己の適正に合わせた職業選択について考える機会が得られる」「身をもって社会の厳しさを体験する」「自分に何が欠けているかを自覚する」「組織におけるコミュニケーションの重要性を体感できる」ことなどで、その目的は「職業や職種のミスマッチを防ぐ」ことを根底に「働く意味を知ること」「社会で自立することを知ること」「自己責任を理解すること」「なりたい自分になること」等である。

 実習後、全体の92.9%の学生は、インターンシップを通じて「意図する目的や何等かの成果を得た」、91.5%の学生が「実習の内容に満足」と答えている。インターンの平均日数は4.9日と短期間だが、学生は「社会に適する自分づくり」のきっかけを見出し、確実に意識の変化を起こしている。小さな幸せを求め、楽でやさしい道を選ぶ草食系人間が増えている社会にあっ
て、インターンシップの体験は「社会人となる不安を持っているのは自分だけでなくお互いが抱えている問題との共感を得る一方で、お互いが就職活動のライバルとなることを意識させ、自信をもって前に進むよう気付きのスイッチを入れさせる相乗効果」がある。

 戦後の復興期は街の中に広場があり、スポーツやゲームや喧嘩を通じて若者が自己を確立する環境が整っていた。切磋琢磨しつつ文武両道の力関係が地域の若者の秩序の基となっていた。スポーツや喧嘩を通じ“程”を知ることができ、負けると相手に勝とうとの目標を持つこともできた。核家族、少子化、“家庭崩壊”などにより地域社会が果たしてきた“躾”が、家庭の中からも消えようとしている。無味乾燥な社会のなかでインターンシップは、社会の“程”を知る絶好の機会と思う。企業側が、適正な人材を判定する手段とすることも、組織社会をリードし置かれた立場を認識できる人材発掘につながると言えないだろうか。

22:41

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告