日誌


2015/03/03

POLITICAL ECONOMY第29号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
中国経済の「新常態」と国有企業改革 

                            NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員・平田芳年 

 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が3月15日、閉幕した。期間中、政府活動報告を行った李克強首相は2015年の国内総生産(GDP)の成長率目標を14年の7.5%から7.0%に引き下げることを表明、「構造改革と安定成長のバランス」を強く訴えた。習近平指導部は、今後の中国経済は高成長が終わり中成長へと移行する「新常態(ニューノーマル)」の段階に入ったとの認識を強調、成長の減速という新しい局面に対応した経済構造の改革を打ち出したものだ。 

 全人代に先立って、中国共産党機関紙「人民日報」は昨年8 月上旬、「中国経済新常態」と題した特集を4日連続して一面 に掲載、シャドーバンクや供給過剰体質、輸出・投資主導型経済からの転換、環境問題など今後解決すべき課題をアピールした。いずれも中国経済の基幹部門に君臨する「国有企業」と密接に絡まるテーマだ。 

 2000年以降、中央政府所管の国有大企業の肥大化が進み、「国進民退」(国有企業が強化され、民有企業が後退する) 論が世情を騒がせた。「フォーチュン500社リスト」に登場する石油3社(中国石油、中国石油化学、中国海洋石油)、通信キャリア3社(中国移動、中国電信、中国聨合通信)、4大銀行 (中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行)、 2大送電企業(国家電網、中国南方電網)、3大自動車メーカー(上海汽車、第一汽車、東風汽車)、3大鉄鋼会社(宝山製鉄、 首都製鉄、武漢製鉄)などの存在だ。 

  このころから「国有経済の戦略的調整」が提唱され、「第12次5か年計画」(2011-2015年)で国有企業改革の目標が「規模の拡大」から「強くて超優良の、国際競争力を持つ世界一流企業」(走出去)へシフトする。中央国有大企業に対する年度評価は、経済的付加価値(EVA)と、海外有力同業とのベンチマーク評価をより重視する傾向にあるという。最近でも中国化工集団のイタリアのタイヤ大手・ピレリ社の買収や東風汽車のシトロエン出資など国有大企業の巨大企業集団化が目立ちはじめている。 

内需主導型経済への転換が構造改革の中軸 

 問題は「新常態」に移行した中国経済の構造改革を考えたときに、「大型国有企業のパワーを強化することが中国の国民経済を成長させる上で望ましい道なのか」という指摘だ。従来の大量の低賃金労働力に頼る輸出主導型経済モデルは持続できず、社会にも受け入れられないことがはっきりした。「新常態」下では、国内需要を掘り起こしながら、国民の豊かさ向上に視点を据えた内需主導型経済への転換が構造改革の中軸にならざるを得ない。産業政策も従来の重厚長大型重視から消費・生活関連、バイオメディカル、電子商取引、先端技術産業といった付加価値の高い新興産業がイノベーションを繰り広げながら次第に舞台の主役に躍り出て、中国経済を牽引する姿に移行する必要があるのではないか。 

 国有企業は非国有企業(民間)よりも一貫して利潤率は低 く、腐敗の温床ともなっている。国有企業がそれ以外の企業よりも経営効率が悪いのだとしたら、その国有企業に国家が発展させたい分野を独占的に任せると、かえってその産業の発展を鈍くさせてしまう恐れはないのか。いまや、アリババ集団、レノボ、ハイアール、TCL、奇瑞汽車など国有企業から民間企業に転じた新興企業群が大きく成長し、国際社会で存在感を増している。党、国家が人事、経営権を握る国有企業に、中核産業やハイテク産業を先導する役割を期待するのは余り賢明な策とは言えないように思われる。 


12:01

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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