ダウ1週間で3583ドル下落
世界恐慌の跫音になるかの分かれ目
グローバル産業雇用研究所所長 小林 良暢
2月24日、米ニューヨーク株の暴落で始まった世界同時株安が止まらない。この「2.24ショック」は、中国発の新型コロナウイルスがイタリアに感染、これによる欧州経済の先行き懸念がニューヨーク市場に伝播したことから、中国発「新型コロナ恐慌」などと言われた。
だが、コロナウイルスくらいで、世界恐慌に結びつけるのは、少々騒ぎすぎだ。そもそも、「2.24ショック」による世界株式市場の暴落は、中国発でもイタリア発でもなく、ニューヨーク発であるというのが、私の見立てである。
確かに、当初は中国コロナがきっかけであったが、26、27日の「2.24ショック」は、アップルの1~3月期の利益目標未達の観測が流れたことでアップル株に売りが殺到したことによるもので、これで米IT発「世界同時暴落」の様相を呈した。
その結果、24~28日の5営業日合計の下落が3,583ドルに達し、2008年のリーマン・ショックを超え過去最大になった。
これに驚愕した米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、28日午後に声明を発表し、「FRBは政策手段を駆使し、経済を支えるために適切な行動をとる」と述べ、直ちに利下げに踏み切る姿勢を示した。
だが、市場は一斉にリスク回避に走った。米長期金利の指標となる10年物米国債の利回りは年1.12%を下回り、連日史上最低を更新した。日本円も買われ円相場は一時、107円51銭と4ヵ月ぶりの高値となり、東京株式市場も売りが殺到、世界株安連鎖に輪をかけることになった。
この一週間の世界の株価暴落の中で、もつとも重視すべき事象は、25日にアメリカの債券市場で長期金利が史上最低を記録したことである。中国発の新型コロナ不況が、N.Y発の世界金融不況に転化した瞬間である。
世界の株価崩落連鎖の過程で、安全資産として米国債へのマネー逃避が継続的に続いた。ここで、見逃せないのは米国の金利が急低下しても、株安の防波堤にならない点である。米景気の減速が金利低下だけでは跳ね返せないということを、市場が見切り始めたのである。こうなると、長期金利が急低下しても、米国株は反応せず、持ち直すどころかさらに大幅安を続け、株価と金利が同時に落下する異常事態になったのである。もはやN.Yではお手上げである。
GPIFはいつ動くのか
アメリカがだめなら主役交替、それは日本しかいない。 週明け2日の東京市場は、まず日銀が動いた。黒田総裁は「潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努める」とする緊急談話を発表、「適切な金融市場調節や資産買い入れの実施を通じて、潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努めていく」ことを強調した。これで市場は、一時は450円高とひとます反転したが、マイナス金利の深掘り等の強力な政策は出し惜しみしたため、終値は前週末比201円高と限定的な反応にとどまった。利下げという政策ツールがはっきりしている米FRBですら市場に見放されたのだから、この程度の?田日銀では、むべなるかなだろうか。
これから先は、日本の GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、いつ買いに動くかだ。この我が国の公的年金の積立金を管理運用する世界最大のヘッジファンドは、リーマン・ショック以来、危機に際して東京市場で買いに入り、世界同時株安を止めてきたことは、世界の市場関係者から広く認知されているところだ。
だがGPIFは「2.24ショック」から一週間は、まったく動かず「音無しの構え」だ。GPIFも、その背後いる安倍官邸も、この「世界同時暴落」の底値はまだ先があると読んで、デットラインは日経平均2万円割れに定めていているのだろうか。だとすると、GPIFが出動するのは、3月第2週か、世界の市場関係者は固唾を呑んで見守っている。これで止まれば世界経済危機が回避され、それでだめなら世界恐慌だ。