日誌


2022/09/23

POLITICAL ECONOMY第223号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
宇宙空間でも戦争機械・国民国家が争う
どこまで拡げれば気がすむのか?
                                       経済アナリスト 柏木 勉   

 北朝鮮がかつてないペースでミサイル発射を繰り返している。発射したミサイルの種類は色々だ。10月4日に発射されたものは午前7時半ごろ青森県付近の「日本上空」を通過し、その後10数分後に太平洋上に落下、飛行距離4500kmで過去最高と、大騒ぎの報道だった。

 「日本上空」を通過するのは、2017年9月15日以来とのこと。この発射で、例のJアラートが対象地域に鳴り響いた(余計な所でも鳴ってしまったようだが)。マスコミは「突然の警報・緊迫の朝」とか「学校、臨時休校」とか自治体や住民のこれまた「大騒ぎぶり」を伝えた。

 しかし、本当に多くの住民たちは動揺し大騒ぎしたのだろうか?小生の憶測でしかないが「大騒ぎ」したのは防衛省・自衛隊の直接所管する部門や、当該自治体の一部、マスコミや少数の住民でしかないと思う。要は空騒ぎなのだ。大騒ぎしなくてはならない立場の者たちが騒いだにすぎない。

 大部分の日本人の感覚は以下のようなものだったろう。「火曜日の朝、いつものようにテレビを観ていたら、突然画面がマガマガしい色の字幕に占領された。Jアラートとかいう見たこともない文字列で、内容は、北朝鮮がミサイルを発射するとか、したとか。今にもミサイルがわが頭上に落ちてきそうなアナウンサーの声。観たいテレビの番組はもちろん中断されたまま終わってしまった。わが朝の楽しみを、横合いから勝手に中断する権利がいったい誰にあるというのか。戦時中の大本営発表じゃあるまいし。せいぜい画面の隅にテロップを流して済ませるべきだったのに大げさな。(略)ロシアのウクライナ侵攻などを好機として防衛費の大幅増が言われている。けさのこの滑稽な大騒ぎは、その世論づくりのためではなかったのか。」 
出所:WEBサイト「ちきゅう座」2022年 10月 5日。表題は「こんなことが許されるのか」
寄稿者<あっちゃん>
 この寄稿者は反自民、防衛費増額反対の立場がうかがわれるが、文面の前半分は普通の日本人の感覚を述べただけだ。この感覚は小生と同じだ。

日本上空? 宇宙空間ですよ!

 そもそも「日本上空」という曖昧な表現は何だ?いかにも日本国領空を侵犯したかのような印象を与えようとする意図が丸見えだ。だが、領空とは普通は高度100kmまでだ。今回の発射は最高高度1000km。宇宙空間なのだ。宇宙空間ですよ!日本列島の上で100km以下になったとは考えられない。もしそうだったら「領空侵犯」としてそれこそ大騒ぎしただろう。こんなことは基礎中の基礎データだが、マスコミ報道はない。防衛省も発表しないだろう。

 こんなことより、北朝鮮の脅威を煽るなら日本国内の原発攻撃への対応をどうするのか?ウクライナのザポリージャ原発攻撃で「メルトダウンしたら大変だ」とか何か月も大騒ぎしているが、一方では原発再稼働を急ぐとか新型小型炉増設やらに急旋回だ。ウクライナ戦争で原発リスクが現実のものになったにもかかわらず、肝腎の国内原発攻撃への危険は全く無視だ。原発攻撃は核戦争と同じなのだ。言う事やることが無茶苦茶だ。では、なぜ北の脅威をあおりたてるのか? 台湾有事の扇動も同じだ。狙いは一つ。9条の完全死文化だ。

どこまで続く、宇宙の軍事化  

 ところで宇宙空間の話だが、今や戦争は宇宙空間の軍事化で成り立っている。軍事衛星なしでは「それなりの戦争」すら出来ない。防衛省によれば「宇宙空間は国境の概念がなく、人工衛星を活用すれば、地球上のあらゆる地域の情報収集や通信、測位などが可能となるため、安全保障の基盤として死活的に重要な役割を果たしており、各国は宇宙空間を軍事作戦の基盤として利用。主要国軍は、多数の軍用衛星を運用し、作戦において宇宙システムに大きく依存」している。弾道ミサイル発射探知の早期警戒衛星はちょっと置くとして、例えばウクライナ戦争をみても、地上戦も各種軍事衛星なしにはなりたたない。侵攻直前、ロシアはウクライナの軍・政府間の連絡に不可欠の衛星通信網へサイバー攻撃、衛星電波を中継する基地局システムを破壊。

 ウクライナへ供与されたロケット弾HIMARSは、GPS/INS(衛星誘導/慣性誘導)により命中精度が飛躍的に向上(米英は偵察衛星等から目標の位置情報をウクライナに提供)。双方とも敵部隊の展開及び移動状況も偵察衛星等によって把握、監視している。旗艦「モスクワ」を沈没させた地対艦ミサイルについてははっきりしないが、地対艦ミサイルは衛星からの敵艦移動データによって誘導され攻撃する。このように宇宙空間の軍事的重要性は増すばかりだ。各国は互いに敵国衛星をキラー衛星その他によって破壊しようと、その研究開発、実用化、性能向上に躍起となっている。

 情けないことはなはだしい。宇宙空間でも戦争機械・国民国家が争っている。どこまで争いは拡がるのか?月はもちろん火星までも?太陽系まで?もっとか?太陽系の外までも?

 国民国家なぞ、たかだか二百数十年ちょっと前、近代以降にできたものでしかない。歴史的起源を忘却してはならない。近代以前には日本人も中国人もフランス人もイギリス人もドイツ人等々も存在しない。限定された相対的なものでしかない。命をかけるに値するものではない。国民国家なしでも人は生きる。国民国家を無化・消滅させなければ人類の未来はない。


09:46

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告