連合の「高プロ」騒動と人事抗争
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢
連合が執行部の迷走で、大揺れの騒ぎになっている。
ことの起こりは、神津氏が7月13日、安倍晋三首相と会談し、働き過ぎを防ぐ措置を盛り込むなどの条件付きで、高度プロフェッショナル(「高プロ」)法案を容認する姿勢を伝えたこと。しかし、中央執行委員会で傘下の有力産業別労働組合から強い反対の意見が相次ぎ、執行部が容認方針の撤回に追い込まれ、政府、経団連との政労使合意が見送れることになった。これだけのことである。これが大騒ぎになったワケを、各社の社説から抜き書きすると(7月28日)・・・
毎日新聞は「連合の提案は『1強』に陰りの見えてきた安倍政権に助け舟を出した」。また東京も、「弱体化した政権に塩を送るような対応は政治センスを疑う。『残業代ゼロ』法案を阻止すべきだ」。朝日は、「混乱を招いた連合執行部の責任は重大。最大の問題は処遇を改善する法改正と『残業代ゼロ』を一緒に進めるやり方が間違いだ」。
だが、この3紙の主張は、今度の騒動の現実とは、大分ずれている。
主因は会長人事をめぐる抗争
私は、そもそも今度の騒動の主因は、連合本部の会長人事を巡る抗争にあるとみている。今回の騒動を理解すキーワードは3つ。
まず、連合の「会長人事」。労働界はメーデーが終わると、連合は秋の人事の噂が飛び交う。今年は神津会長の一期目が終わり、慣例では再任のはず。だが、4月発行の会員制情報誌FACTAに「運合の古だぬき高木が神津会長降ろし」の記事か出た。神津会長を1期で降ろし、後任には逢見事務局長を据えるという画策を、元連合会長が仕掛けているという内容だ。5月なって、連合OBにFACTAの記事をみせたら、「小林さん、それは“神津降ろし”ではなく、2年前に神津-逢見体制の発足の時の“密約”の実行を高木氏が迫っているのだよ」と教えてくれた。この蜜約話は、神津氏が出身のJCM(金属労協)系の産別には不満を募らせた。
次に「逢見-村上ライン」。じつは3月の働き方改革の政労使合意は、逢見事務局長と村上陽子総合労働政策局長が厚労省と仕組んで組んでOKを出したもの。神津会長はカヤの外、この動きをご注進してくるのもいない。とくに36協定の時間外規制に対して、JCM系大産別からは労使協議の現場を知らない政・労官僚がやったことと不満たらたらで、それに尾ひれがついて相原自動車総連会長が会長人事に意欲を示しているというチマタの噂。今度の「高プロ」法案も逢見-村上ラインが政府や経団連と水面下で調整してまとめ上げ、神津会長は直で内容を把握しておらず(朝日7.14)、一方で、連合構成組織への根回しもないことに不満を鬱積させて、ついに爆発したというのが事の真相である。
電機・自動車の「まさか」の叛乱
3つ目のキーワードは「電機・自動車の『まさか』の叛乱」。7月8日の連合執行部が「高プロ」容認方針を初めて説明した機関会議で、先頭に立って反対したのが電機連合・自動総連の代表だ(日経7.14)。JCM(金属労協)系の大産別で、もともと研究開発技術者を多数抱える両労組は「高プロ」法案には理解のある立場だが、それが「まさか」の反乱をしたのには、人事への恨みでしかない。
労働組合なんて、所詮は人を寄せ集めただけのエゴ集団、利益になれば妥協もするし、相手の懐に飛び込んで取引もする。私はそれでよしとする。『1強』に陰りの見えてきた安倍政権に助け舟を出す」とか、「弱体化した政権に塩を送る」などの批判は的外れだ。だからといって、連合有力OBが会長人事に介入したり、ましてや「密約」がどうのという時代ではない。連合の執行部方針に不満や批判をする構成組織は、会長でも事務局長にも堂々と対抗馬を立てるのが組合民主主義というものだ。
ところが、連合役員推薦委員会は、神津会長・逢見常任会長代行・相原事務局長でことを収め、この体制に2年の任期を委ねる。だが、いま神津氏61歳、逢見氏63歳、連合の役薦内規では65歳にかかる者は推薦できない。2年後には逢見氏がこれにかかる可能性があり、これが今度の人事騒動の出発点で、この点は解決していない。ここから先は私の見立てだが、初代連合会長山岸氏から2代芦田氏への移行の過程で、2期目途中で山岸氏が緊急入院、後任を芦田氏に託すという「1.5」の密約があったという。今度は、こういう時代錯誤はもう止めてくれと言いたい。
政労使の合意形成型協議体制が確立して4年、その一角を担う連合はそれに相応しい透明で成熟した組織に成長して、政府・経団連に対抗できる組織になってもらいたい。