日誌


2014/09/01

「グローカル通信」第9号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
 “くまモン”も参加
日本広報学会第20回研究発表全国大会を熊本で開催

                                                                        東海大学教授 小野豊和

 九州・熊本市の東海大学熊本キャンパスで10月18日、19日、日本広報学会第20回研究発表全国大会を開催する。統一論題は「グローカル時代におけるコーポレート・コミュニケーション戦略を深化する」で、基調講演には、九州を代表する九州経済連合会副会長・JR九州相談役の石原進氏と熊本県知事・蒲島郁夫氏を迎え、「観光を九州の基幹産業に〜活力あふれる九州に向けて」、「くまモンの政治経済学〜くまモンのロイヤリティフリー戦略」についてお話しいただく。楽市楽座をヒントに“くまモン営業部長”を生み出した発想、国鉄分割民営化後、“ななつ星in Kyushu”などで話題を提供し続ける戦略などをトップ自ら語っていただくことになっている。

 基調講演の2人に加え、異文化経営学会会長の馬越恵美子氏、長崎大学副学長・広報戦略本部長の深尾典男氏、事業構想大学院大学副学長・日本広報学会副会長の上野征洋氏の5人によるパネルディスカッションが続く。ファシリテーターによる趣旨説明が終わるや否や突然“くまモン”が現れる秘策を練っているが、参加者に驚きと緊張感を和らげる雰囲気を醸し出すことだろう。

 日立物流の社外取締役に就任した馬越恵美子氏は「コーポレート・コミュニケーション戦略としての“女性活用”の推進」を提起する。専門のダイバーシティ・マネジメントについて現場からの報告を期待している。長崎大学の深尾典男副学長は、会社組織でない大学では困難と思われていた大学に広報戦略本部を設置し本部長を担当。学内のすべての情報収集・発信の一本化、学長による定例記者会見の実現などに手腕を発揮。また2018年問題、つまり高卒者激減による大学の定員確保の危機対策として、入試広報一辺倒の大学広報のあり方に警鐘を与える発言を期待する。理論派の上野征洋氏からは、グローカル・コミュニケーションの現状と未来について示唆に富むコメントを期待している。

 首都圏から遠く離れた九州での大会開催の課題は参加者の確保で、公共コミュニケ—ション学会、異文化経営学会と協賛参加を申し合わせ、特に行政関係の発表が追加された。統一論題4本、自由論題24本(広報理論・企業広報・広報人材・行政広報・社会貢献)のほか、初の試みとして導入したポスターセッションに15件の応募があった。メーン会場左右に1日目から展示するポスターは参加者が移動のたびに見ることができる。2日目の昼食休憩時に設定している立会説明での活発な質疑応答を期待している。

地域に貢献する大学へ

 大会に先立ち事前に熊本県県政記者クラブで発表、メディア席を用意するなどの対応を説明したところ、県下だけでなく福岡からも取材陣が来てくれることになった。また、1日目を地元向け無料公開講座として地元紙『熊本日日新聞』掲載を通じて参加者を募集したところ、多くの市民の参加を得た。大学が地(知)の拠点として地域に貢献すべきという文科省の方針を反映するイベントとして企画した。

 日本広報学会は1995年3月24日に経団連の外郭団体である経済広報センターを母体として企業広報に重点を置いて設立された。業広報担当者、大学教員・研究者はもとより、法人会員、自治体等への拡がりをみせ、10月1日現在の会員数は646名(個人449、学生36、法人47社161人)となっている。来年の20周年記念大会は東京大学本郷キャンパスで9月11、12日に開催することが決まっている。熊本大会終了時に、次期開催校で現場を指揮する東京大学大学院情報学環・総合防災情報研究センター准教授の関谷直也氏から力強い決意表明
が行われる。


19:03

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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