日誌


2014/10/01

POLITICAL ECONOMY 第24号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
エコノミストの予測は外れが多い!
  3大経済誌のマーケット予測を採点する

                 NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年

 今年も余すこと2カ月。年末になると各経済専門誌は来年のマーケット予測を取り上げ、エコノミストらを動員して経済成長率、株価、為替、金利などの経済指標の見通しを誌面で公表、読者の関心を惹きつける。しかし、その予測結果がどうであったのかを事後的に検証する媒体はほとんどない。雑誌によっては数十ページに及ぶ特集を掲載しているのだから、その結果報告の記事を数ページ程度割いて掲載しても良いのではないか。そこで、やや早いが、エコノミスト(略称エ)、東洋経済(東)、ダイヤモンド(ダ)3大経済誌の2014年予測(2013年末掲載)を勝手に検証してみた。

 内外のマクロ経済予測は前提となる経済環境判断や政治的要素、国際紛争などが複雑に重なるので、字数が限られるこのコラムでは2013年末に3誌が予測した株価、為替、金利などの数値を以下に再録、今年10月30日時点で独断的に暫定評定した。

 <株価=日経平均>
・緩やかな経済成長と潤沢な流動性、安定的な金利環境が追 い風、14年3月までに1万8000円まで上昇余地。後半は調整 局面入り(ダ・丸山俊BNPバリバ証券)

・消費増税で5月に大幅調整を想定。世界景気の回復傾向を 受け株価は年末に向け緩やかに回復。上値メド(12月)1万 8000円、下値メド(5月)1万3500円を想定。(東・藤戸則 弘三菱UFJモルガン・スタンレー証券)

・日銀の追加金融緩和、賃上げ、ドル高、企業業績の上方修 正など好材料で年前半に2万円の可能性。後半は材料難で年 末に1万7000円。(エ・坂上亮太SMBC日興證券)

<為替=ドル円相場>
・円は先進国通貨の中で最弱。米労働市場の改善、利上げ期 待の高まりでドル高を予想。年末までに106円程度まで円安 に。(ダ・佐々木融JPモルガン・チェース銀)

・米が金融緩和の出口に向かえば米金利上昇に素直に反応し、 ドル高円安基調を強める。年半ばにかけ108円前後、その後、 調整局面入り。(東・高島修シティグループ証券)

・貿易赤字、企業の海外投資が円売り圧力。需給は円安方向 に傾き、米金利上昇が追い風となり年末は110円と予想。 (エ・池田雄之輔野村證券)
 
<金利=10年国債利回り>
・日銀の国債買入れオペと投資家のリスク資産への移動で短 期急騰後、膠着〜じり安を繰り返し、14年中は0.55-1.10% の間で推移。(ダ・松沢中野村證券)

・増税の逆風で金融政策に一段と負荷。国債買い入れ増額も 避けられず、国債需給のタイト化をもたらす。年後半に0.4 -09%水準に向かう。(東・森田長太郎SMBC日興證券)
・米 の量的緩和縮小以外に金利上昇要因なし。消費増税前まで 上昇、増税後低下。0.4-0.9%の範囲で推移。(エ・ 櫻井祐 記富国生命投資顧問)

<原油>
・米、OPECの増産共振現象と中国など需要サイドの低調でWTI 価格が90㌦前後へ下落が見込まれる。(ダ・豊島逸夫=豊島 逸夫事務所)

・OPECの減産論議、米、欧の景気回復と中国の堅調で需要増。 WTIは90-115㌦がメインシナリオ。秋口にかけ125㌦も。(エ・江守哲アストマックス投信)

予測はむずかしい?!

 さてこれらの予測がどうであったか。まだ年末までに2カ月あるので、今後の大きな変動もありうるが、今年10月30日時点の各数値、株価= 1万5658円、為替=109円、金利=0.470%、原油=81㌦をもとに暫定評定してみた。

 株価は昨年末の1万6291円から4月に年初来安値の1万3885円まで値を下げた後、上昇に転じ9月に年初来高値の1万6,374円を付けた。しかしその後、1万4500円台から1万5600円台を推移。3誌が予測した1万8000円〜2万円は一度も実現していないのでいずれも☓。米欧日とも景気の先行き予想は弱く、高めの株価予測は空振りに終わりそうだ。

 為替は10月はじめに瞬間的に110円まで下落したが、行き過ぎた円安批判もあって107-109円の調整局面入りの様相。円安ドル高基調は変わらないが、現時点では東洋経済〇、ダイヤモンド☓、エコノミスト△といったところか。

 1%以下の超低金利状態が続く中で、3誌の数値は0・4-1・10%と予測幅を大きく取っており、それだけ的中率は高まる。昨年末から日銀の国債大量購入を背景に一貫して金利低下が続いており、10月には短期国債入札で初のマイナス金利が出現、低下基調に変化はない。ダイヤモンド☓、東洋経済、エコノミストは予測の下限で△。

 原油は2誌の予測だが、いずれも大きく外れて☓。8月まで96-105㌦で推移してきたが中国経済の減速など世界景気の停滞が長引くとの見通しからジリジリと値を下げた。

 3誌予測は消費増税のマイナス影響や日米欧の景気判断、日銀の追加金融緩和見通しの違いで強弱が出たようだ。暫定採点では☓が多く、厳しい評価となったが、あと2カ月、各自で最終評価を下してみてはどうか。


22:53

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

LINK

次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告