日誌


2021/02/10

POLITICAL ECONOMY第184号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
転入が減り、転出が増えて減少に向かう東京都の人口

                                経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

 東京都の人口が減少し始めている。昨年5月に1400万人台乗せとなったが一か月だけで終わり、翌月から毎月減少が続いている。年間で見ると(2021年1月1日)は前年比で増加は1万人を下回った。25年連続で人口増加となったとはいえ、この5年間は毎年10万人以上の増加だったので様変わりである。新型コロナウイルス感染拡大から在宅勤務などテレワークが普及し、郊外や地方に移住する動きが活発になり、東京からの転出者が増加しているためと見られる。東京都の人口は2030年にピークを迎えるとされているが、転出増が続けば9年も前倒しで人口減少に向かうことになる。

 東京都は毎月人口推計を発表している。2015年の国勢調査による人口の確報値に毎月の住民基本台帳人口の増減を加えたものだ。それによると1月1日時点での人口総数は1396万236人で前月比2489人減、前年同月比8600人増となった。昨年8月から連続6カ月減少となっている(図1)。

 都区部(23区)と市部、郡部、島部と分けると、奥多摩町など「郡部」と大島など「島部」はすべての市町村で人口減少している。三鷹市など「市部」も26市の中で7市が減少、都区部も23区中13区が減少となった。

 人口減少はなぜ起こったのか。理由は東京への転入者数よりも転出者数が上回ったためだ。転出者の増加が、昨年7月から7カ月続いている(図2)。これは新型コロナウイルスの感染者数が多い都区部を敬遠していることもあるが、テレワークの拡大やワーケーションなどで自然が豊かで広い住居を求め郊外や地方に移住するケースが増えているためと見られている。

 千代田区有楽町にある「全国の移住相談窓口が集まる「ふるさと回帰支援センター」では、「20年12月、電話・メール・面談を合わせた相談件数は2300件と前年同月比で13%も増えた」(日本経済新聞2月2日付け)。というから、郊外や地方への移住の高まりは強いのだろう。

 これまで東京都の人口は自然減(死亡者数が出生数を上回る状態)を社会増(転入者数が転出者数を上回る状態)で穴埋めし、人口増に結びつけてきた。少子化と高齢化の進行で死亡数が出生数を上回ったのは2012年。その後も人口が増えてきたのは、他県からの転入者の増加が続いてきたからなのだ。

都心の本社オフィスの縮小に動く企業

 転入増は1997年から
で24年も続いている。それ以前は64年から96年までは転出者数の方が上回っていた。当時は自然増が社会減を上回り人口増となっていたのだ図3)。つまり東京都は、同じ人口増加といっても「社会減・自然増」→「社会増・自然増」という経緯をたどり、12年から「社会増・自然減」という形で人口が増加していたのである。

 さて東京の人口は減少に向かうのだろうか。これはひとえに東京からの転出者数が転入者数を上回る現象が続くかにある。その際の焦点は3月の動きである。毎年3月に東京への転入者が急増する。これは入学、就職・転職、異動のためで、昨年も3月は1カ月で4万の転入超過となった。この転入超過の数字はそのまま4月の人口増加につながっている。

 そこで気になるのは企業の動きだ。ひとつは本社オフィスの縮小だ。テレワークの拡大によって社員全員の机とイスをそろえなくてもいいという動きになっている。1月に電通が業績悪化から本社ビルを売却し、テナントとして入居することが明らかになった48階建てビルの半分程度の入居と見られる。

 本社を都心から移転させるとか機能を分散させる動きも出ている。大手町など都心に置くと人材を集めやすいという面もあるが、震災などのリスクを考えると分散させた方がよいと認識し始めたのだろう。こうした動きが大きくなれば東京への転入者は減少することになる。

規制緩和の見直しが必要

 最後に政府の政策に触れてみたい。安倍前首相は2014年に作成した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、東京への一極集中の是正策として、2020年に東京圏(1都3県)の転出者と転入者の差をゼロにするという目標を掲げていた。ところが東京都の転入超過が毎年6万人から7万人(東京圏では10万-14万人の転入超過)と続き目標は頓挫した(20年改訂版では24年に均衡させると目標を繰り延べしている)。

 しかし、20年は転入超過とはいえ約3万人と半減したのだから、この流れに乗って東京への一極集中の是正策を打ち出すべきではないのか。まずできることと言えば、タワマン林立を促した「都心居住の推進」と「市街地の再開発」ということで行われた規制緩和の見直しである。ポストコロナを見据えた政策が求められていると思う。


10:59

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

LINK

次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告