日誌


2021/02/08

POLITICAL ECONOMY第183号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
学会活動の地方化への道~日本広報学会九州部会設立まで~
                                                             元東海大学経営学部教授 小野豊和

 1月27日開催の日本広報学会第92回理事会で「九州部会(筆者が部会長)」設立が承認された。日本広報学会は、企業や行政などの経営体の広報・コミュニケーションに関連した研究活動を展開し「広報」を学問として確立・深化させると共に、実践の場においても意義のあるものにすることを強く意識し、研究者・教育者だけでなく、広報・経営の実務の人たちが参画する産官学による異色の学会として1995年に設立した。

 大学関係の研究者に加えて、経団連の外郭団体・経済広報センターが母体となりトヨタ、松下電器など大手企業が法人会員となる中、筆者は松下電器(現パナソニック)社員であったが、広報部門社員として設立年度から個人会員としての入会が許された。学術研究の世界に刺激を受け、研究会への参加、論文提出など二足のわらじを履きながら、実務世界の経営ケースを事例研究として発表する機会を得た。

 縁あって東海大学経営学部教授に迎えられ、2006年パナソニックを58歳で早期定年退職しアカデミーの世界が本業となった。2012年春、学内異動で九州熊本に来ると、学会活動が首都圏に集中していることに気づき、学会活動の地方化の必要性を感じるようになった。学会では論文、発表等の業績があったことから常任理事大会実行委員長を拝命し、2014年10月、第20回研究発表全国大会の東海大学熊本キャンパス招致に成功した。統一論題を「グローカル時代におけるコーポレート・コミュニケーション戦略を深化する」とし、基調講演はJR九州石原進会長による「九州の観光戦略」、蒲島郁夫熊本県知事とくまモンによる「くまモンの政治経済学~くまモンのロイヤリティフリー戦略」、その後、荻田伍アサヒビールHD会長、上野征洋学会副会長、馬越恵美子桜美林大学副学長、深尾典男長崎大学副学長を加えてパネルディスカッションを実施。全国から累計270人の参加を得、ポスターセッションの初導入も行った。

地域における広報力アップを目指す

 以上の背景から、九州部会設立の目的を「九州地区において、産官学の学会として組織内に広報意識を根付かせ、その必要性を組織体自らが判断・推進する体制の確立を支援する。対象は地元企業を中心に自治体、病院、学校、大学、NPO法人などで、組織体における広報活動の在り方、危機管理対応の基本、企業評価に必要な経営姿勢の在り方など基礎的な教育から始め、九州地区会員の共通課題の解決と交流を図り、地域における広報力アップと会勢拡大を図る」とし、推進目標として1学術研究に資する活動を支援する2広報教育の啓蒙・推進3地元の広報ニーズ発掘とコンサルタント推進4幅広い情報共有による広報ネットワークの構築(広報プラットホームの構築)5経営トップを支えるCCO人材の育成とした。

 地域における基盤づくりのための活動として「地域創生の現場におけるコーポレート・コミュニケーション戦略研究」(2016~7)、「災害復興の現場における広報の在り方」(2018~9)「九州地域における組織体運営における広報の在り方」(2020~21)の事例研究・交流部会を主宰してきた。2019年には地域における広報意識の普及・啓発を図るため拡大公開研究会「CCカフェ熊本」を開催。熊本地震災害現場からの報告、CC手法の解説などを行い、地元から肥後銀行、済生会熊本病院、金剛?、KMバイオロニクス(株)(元化血研)などが参加、交流を深めた。

 2019年12月21日、博多で「九州部会設立準備会」を正式に発足。コロナ禍ではあったが、地域における活動のプラットホームを作るべく、熊本地震後に設立したNPO
法人「くまもと新創生プロジェクト」(筆者が監事)と、地元コンサルの(株)南星が推進している「元気ゆい倶楽部」との合同による「くまもと元気かい」講座を企画、2020年度からいくつかのテーマで実施した(表参照)。
 2020年度はコロナ禍ではあったが、会場開催とzoom配信の両建で実施。2020年末までに地域部会成立要件(会員10人以上)を満たしたことから、理事会に九州部会設立申請議案を上程し承認を得た。(現在、九州・沖縄地区会員は14名)

熊本発で九州全域へ

 2021年になる、コロナ拡散拡大で5回目、6回目はやむなく延期したが、3月14日に九州部会設立記念研究会開催する計画している。基調講演として「九州・沖縄に本社を置く企業の広報課題」とするが「熊本県政と広報」「メディアの在り方」などについても議論する予定。

 九州部会発足初年度の2021年度は「九州地域への展開を図るため、熊本を拠点とした横の展開を模索し、運営方法としてはCCカフェ方式による参加型」をめざす。具体的には、1九州地域の組織体運営に資するテーマを設定し年2回以上開催。2事例報告と参加者とのディスカッションによる参加型。3九州地域の組織体・メディアに呼びかけ九州地域特有の事例を発掘。4九州地域の広報課題を取り上げ、参加者との交流を通じて広報の必要性深化を図る。5当面、長崎、北九州、博多、大分、熊本に幹事を置き、将来的には佐賀、宮崎、鹿児島への展開も図る。


16:43

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告