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2019/08/31

POLITICAL ECONOMY146号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
チベット紀行(下)
進むインフラ整備・開発と観光地化の中で
                     経済アナリスト 柏木 勉

 チベットは標高が高い。チベット高原といわれる所以だ。ラサは富士山と同じ高さ。ラサ駅からホテルに到着し、少しばかりたったら体調がおかしくなった人がいた。高山病で、それから2日間「ホテルで静養」になってしまった。私もラサに着いた日の夜は、部屋の中を動いていると頭が何となくぼんやりした。夜中の3時頃に目が覚めて動悸がするような気になる。そこで、持参していた経口補水液を飲んだら、気分が落ち着きそのまま寝られた。

 翌朝、何人かと話したら、やはり調子がおかしくなり数人は各自の部屋においてあった酸素缶から酸素を吸っていた。これは細長い缶に酸素が入っていて、缶のボタンを押すと口から酸素吸入ができるもの。この後、さらに高所の街や峠(標高4700m。ヒマラヤが望める)に登ったが、その際は我々全員が酸素缶のお世話になった。

 また、標高が高いと木や植物が少ない。河の周囲では菜の花の黄色や裸麦の緑が美しい。だが、ヤクが放牧される山から少し上がるとはげ山だらけだ。だから空気が非常に乾燥している。ペットボトルの水を2、3時間で2本くらい飲みほしてもトイレのことを忘れるくらいだ。標高が高いと日差しも強い。完全に晴れると抜けるような青空だ。日差しは、少し大げさだが直線的に刺さってくる感じがある。現地のチベット族でもサングラスをかけているものが多い。
 
 ところで、標高が高くてまいったのはビールが飲めないことだった。高山病を考えると飲まない方が無難だと云うのだ。なんだか良く分からないが、標高が高いため、血液中の水分やアルコールの泡が通常より大きく膨らんで、具合が悪くなるという。これは本当か?事前に調べても来なかったから仕方がない。ラサにいた3日間は禁酒になってしまった。ラサから離れる日の昼食時のみビールを1本飲んだ。名前は「ラサビール」。ところが冷やしていないし店の中も暑かったから、非常に生温かくてまずい。最初の一杯を注いだら殆んど泡だ。我慢して飲み終わるまでえらく時間がかかった。だが、いくらまずくても、それでも飲むのがバカな酒のみだ。

修行の場にもスマホ

 チベット団体ツアーは定番コースだ。ポタラ宮やチベット仏教の寺としてラサに最初に建造されたジョガン寺、ラサと同じ聖地であるシガツェ市のタシルンポ寺等々をめぐった。タシルンポ寺の手前の通りは、両側の歩道に巡礼者目当ての店が軒を連ねている。何種類もの数珠や首飾り、腕輪その他諸々、巡礼の必需品を所狭しと並べている。そのうえ歩道には巡礼者の群れが家族連れで休んでいるので、歩道をまともに歩けない。巡礼の熱気を実感した。だが、チベット仏教への信仰の現状がどうかといえばよくわからない。

 ジョガン寺の界隈では五体投地を繰り返す人を何人か見た。地面のコンクリートの温度は優に40度を超えていた。「いやー、大変だな」と思いながら横を通りすぎた。しかし、その人数は少ない。観光客が大半だ。漢族が一番多いが欧米人もパラパラ見かける。新しい綺麗なチベットの民族服を着た女の子が2人やってきた。「ふーん」と顔をみたら漢族だ。化粧で色が白いとはいえ漢族だ。つまりコスチュームとして着ているのだ。日本に来た外国人が着物や浴衣を着て喜んでいるのと同じ。

 「なるほどね」と思ったのは、どこだったか忘れたが、寺の中で修行中の僧侶達がスマホを持っていることだった。お経を読んでいる場でそんなものを持っているとは思わなかった。何気なくみたら、柱に数台スマホがひっかけてあった。あれっと思い、さらに眺めると子供の僧侶がなにやら手を頻繁に動かしている。周りの僧侶はお経を唱えているが、その子はゲームに夢中になっていたのだ。まあ、中国では今やどんな片田舎でもスマホがないと生活できない。どんな場でもスマホはあるのだ。

鳥葬と開発

 ところでチベットといえば鳥葬だが、今回の旅の前にNHKのドキュメンタリーを見た。その最後のシーンで、チベット族の鳥葬を観光の見世物にしている場面が映し出された。多くの漢族の若者たちが鳥葬を間近で見ている。詳しく写してはいなかったが、中国の観光ツアーに組み込まれていることはわかった。そこでチベット人ガイドに鳥葬について尋ねてみたが、答えは「普通のチベット族が一番望むのは鳥葬。しかし鳥葬師などの依頼にカネがかかるので望み通りにはできな
い」とのこと。それ以上は聞かなかった。

 日本人の感覚では、葬儀である鳥葬を観光の対象にするのは倫理的に許されないと思う。しかしチベット自治区以外の四川省や甘粛省等では中国人観光ツアーで鳥葬見学が行われている。帰国して調べてみると、現在チベット自治区では、鳥葬を好奇心から見物、撮影、発信することは禁止だ。チベットの伝統と死者に対する冒涜として非難されるようになったのだ。しかし、中国政府・共産党はチベット全体のインフラ整備で急速な開発を進め、観光地化を促進している。青蔵鉄道の開通、道路の拡張・延伸、峠を貫通するトンネル、ダム・発電所建設等々。チベットの貧困脱出に向け、「チベット族の精神を改革する必要がある」との認識のもと、チベット族の生活向上意欲と努力の不足を改革しようというわけだ。だが、それが伝統的なチベットの宗教性や生活様式と衝突し、漢族との所得格差拡大、チベットの民族問題の深刻化を招いている。鳥葬の件はその一端でしかない(鳥葬はネットで見ることは可能。我々の感覚では残酷)。

 上海空港での両手の指紋採取、5年前のウイグル自治区へ向かう時と同じできわめて厳しい手荷物検査。列車でも手荷物検査。チベット自治区ではパスポート発行禁止、人が集まるところ必ずたむろする公安・警察。チベット自治区とウイグル自治区は厳戒態勢にある。(写真はポタラ宮前広場から)
おわり)       

10:23

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第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

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