日誌


2019/01/20

POLITICAL ECONOMY135号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
バブル崩壊は近い
                  経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

 不動産経済研究所の「首都圏のマンション市場動向」によると、昨年12月の初月契約率は49.4%と1991年8月以来の50%割れとなった。初月契約率というのは新築マンションを発売した最初の一ヶ月で契約した比率で、好調時は70%とされている。実は11月も53.9%と落ち込んだこともあり、2ヵ月連続での大幅下落ということで、マンション市場に赤信号が点滅し始めたという見方が流れた。ちなみに今年1月は67.5%と持ち直したが、これはデベロッパーが在庫物件の販売を優先したためだそうだ。

 平均価格も5653万円と2ヵ月連続で下落した。頭打ちが続いているがじりじり下がり始めている。明らかにマンションの売れ行きは鈍っている。テレビの報道番組に登場した不動産コンサルタントの長嶋修氏によると、マンション価格が下がりにくいところは(東京近郊の)駅から徒歩5分以内という。5年前は徒歩10分だったが3年前は徒歩7分になり、年々駅に近づいているそうだ。購入者の利便性重視は年々強まる傾向にある。駅から遠い所は下落率も大きいという。

東京だけが突出して上昇

 不動産価格の上昇は全国的に見ると県庁所在地を中心に広がっているが、東京が極端に高くなっている(図参照)。同図を見れば東京だけが群を抜いて高くなっていることが確認できるだろう。東京の銀座通り鳩居堂前の路線価は坪1億5000万円とバブル直後(1992年)の1億2000万円を超えている。大阪、名古屋でもバブル期の半分程度なので、東京だけが異常な高値と言える。

 バブル(といってもミニバブルだが)が弾けるということは、東京都心の一等地はともかく大半の地価も下落することを意味している。それはいつなのか。多くの人は今年とみている。理由はオリンピック競技場などの建設需要がなくなるのが開催年の前年である2019年であることとそれを見越して中国人などの外国人投資家が売りに出ると見られるからだ。

 つまり外国人投資家がカギを握っているということなのだが、外国人投資家は世界の不動産市場に敏感だ。アメリカやヨーロッパさらには中国の主要都市の不動産価格は頭打ちとなっていることもあり、「投資家の資金は不動産から遠ざかっている」(日経新聞2月24日付け)という見方も広がっている。外国人投資家は住むためにマンションを買っているのではない。逃げ足は速い。売り時と判断すれば一気に売りに出る可能性もある。
 
 中長期的に見れば不動産価格は人口動態に連動すると言われている。今後、急速に進む人口減少を考えれば、不動産価格は下落する方向に動く。空き家戸数は2013年で約820万戸だが、おそらく現時点では1000万戸を超えているのではないか。2033年には2150万戸まで増えると見られている。空き家比率も30.5%となるので、3軒に1軒近くは空き家というとんでもない事態となる。明らかに住宅過剰社会になっているのだから新規の開発は抑制するのが筋だろう。

 住宅の需給を考えれば全体として下落方向なのだが、にもかかわらずバブルとなったのは、「異次元緩和」で超低金利としたことでマネーがあふれ不動産業界に流れ込んだためだ。建設業界の人手不足による人件費の上昇と資源価格の高騰も一役買った。そして一極集中との相乗効果である。「東京は不滅神話」である。

 だがこの不動産バブルもまもなく終わる。東京都内のマンションは7300万-7500万円水準となり、すでにサラリーマンには手が届かなくなっている。購入するのは世帯収入2000万円以上のスーパーカップルなど一部上流層に限られている。売れなくなれば下がるのは道理で、すでに昨年あたりから裏で下げていると長嶋氏は明かしていた。

バブル崩壊は経済後退と連動

 さてここで問題となるのは、バブルが崩壊すると実経済にもマイナスの影響を与えることである。かろうじて続いている「景気上昇」は一転して後退局面入りとなってしまう。

 経済がわずかでも良いことが大きな支えとなっている安倍政権としては、今年は選挙イヤーなので景気後退は何としても避けたいところだ。そこでというわけではないが、すでに積極的な財政出動と消費増税対策を通常予算に組み込んでいる。あとは超低金利の継続である。万が一にも出口戦略など考えるなと日銀に念押しする必要があった。これが2月22日の「安倍・黒田会談」だったのではないか。バブル崩壊も景気後退も避けられない。安倍首相の頭の中にあるのは、影響を少なくするだけでなく、できるだけ遅らせて今年後半以降にずらしたいということだろう。


14:56

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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