日誌


2019/02/07

POLITICAL ECONOMY136号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
かかりつけのケアマネとドクター
-在宅での生活支援の経験から-

                        労働調査協議会客員調査研究員 白石利政

 週4回、朝夕続いた義母のデイサービス利用時の送迎が昨年末に突然終わった。享年95歳。夫と死別してからの17年間、車で15分くらいの隣町に住む長女の生活支援をうけ在宅で生き抜いた。このうち6年と3ヶ月、次女(妻)が同居して主たる介護者としてこれに加わった。そのきっかけは7年前に一過性ではあったが、せん妄で異常行動を引き起こし、ついで骨折による長期入院となり、退院後の一人暮らしは無理との判断からであった。私と娘も一緒に横浜から西へ800キロ、移り住むことになった。高齢者の生活をそばで見ながら「介護支援専門員(ケアマネと略)」と「主治医」の役割の大きさを痛感した。ともに今後のあり方が検討されているようだ。

  2012年の退院後は車椅子生活。介護度は要介護2(2018年10月要介護3)。同居後まもなくしてケアマネの司会のもとサービス担当者会議がもたれた。本人と家族のほか、デイサービス先の介護責任者、介護用品レンタル先の担当者も出席していた。ケアプランの説明の後に契約書が取り交わされた。これがケアプランの聞き始めであり、介護はチーム作業であることを実感した。介護保険で利用したのはデイサービス(週2回、のちに週4回 )と介護用品(電動ベッド、車椅子、スロープ。のちにトイレ用アーム)である。

ケアマネの存在は大きい

 介護保険の利用者にとってケアマネの存在は大きい。このケアマネ、2000年4月から施行された介護保険制度では「要介護者等からの相談に応じ、要介護者等がその心身の状況に応じ適切なサービスを利用できるよう市町村、サービス利用者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者が自立した日常生活に必要な援助に関する専門的知識・技術を有する者として介護支援専門員証を受けたものをいう」と定義されている。ドイツ在住の川口マーン恵美氏によると、「ドイツには、日本でいうケアマネージャーはいない」と「(「老後の誤算 日本とドイツ」)。

 ケアマネについて佐藤信人氏は「介護保険制度の創設を検討するに当たっては、保険給付のサービスをどのようこ行うべきかが大きな課題でした。介護保険の保険給付が、もし、現金給付の仕組みだったらどうでしょう。給付された現金をどのように使うか、サービスに替えようと預金しようと利用者の自由になります。たとえサービスに替えたとしても、どのようなサービスを使うかは利用者の判断で自由です。この場合にはケアマネジメントは導入されなかったかもしれません」と、述べている(「ケアプラン作成の基本的考え方」)。この佐藤氏、「霞が関を去るとき、当時の老健局長であった堤修三さんから『ケアマネの父』の称号を奉られた人です」(大熊由紀子「物語 介護保険下」)。
 
 このケアマネ、専門性の向上が課題となっている。その一環として、厚労省は2014年、ケアマネの受験資格を?法定資格(介護福祉士、看護師等)取得後、登録後

の従事期間が5年以上かつ900日以上、?特定の施設等で法により必須とされる相談援助業務の従事期間が5年以上かつ900日以上、へと変更。経過措置を経て2018年から実施された。その結果、受験者数は49,333人、合格率は10.1%、ともに過去最低となった(図参照)。この落ち込みが、「ケアマネVer.2」の誕生の年となることを期待したい。

医師の専門で変わる病名

 主治医(整形外科医)の往診は同居当時、偶数月は週2回、奇数月は週1回であった。昨年の3月、第3腰椎の圧迫骨折で総合病院に1ヶ月入院、その後リハビリのため転院した病院で2ヶ月かかった。これが言われるところの在院日数の長さであり、病院のマンパワー不足のため在院日数の減・病床の効率的利用がさまたげられていることか、と実感した。しかし家族にとっては、正直なところ一息つけた。

 退院後の往診は週2回、お願いした。このほか、半年に1回、総合病院の腎臓内科を受診、顎骨壊死後の治療で口腔外科での2週間に一回の受診が続いた。

 この1年、「頭がガンガンする」「眠れん」の訴え、特に不眠については毎夜となった。鎮痛剤や睡眠薬の投与を控えるため市販整腸剤やお菓子のタブレットなどを渡すもその効果は期待できず、主治医の紹介で脳外科を受診、診断名は神経性変性型認知症。納得できず知り合いのさらに知り合いの情報で心療内科を受診、診断名は老人性鬱病。切羽詰まっての「はしご受診」。困ったのはその都度、処方箋が出され知らない薬がでること。「主治医」がいなければ薬の管理は到底できない。また、このことで経験したことは、医師の専門によって診断名がでること。最後に朝食中倒れ救急車で運び込まれた病院では心臓弁膜症、これで亡くなった。

 「総合医」「総合診療医」のあり方が検討されている。その必要性の4つの視点のなかに「?高齢化に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が今後も増えること」が挙げられている(厚労省「専門医の在り方に関する検討会 報告書」 2013年)その通りだと思う。

 要介護者(義母)は介護と医療の保険制度内のサービスと、「かかりつけ」のケアマネと医師の助けをかり在宅での生活を通せた。ケアマネの「バージョンアップ」と「総合医」「総合診療医」の定着を望む。ある偉人の言葉に「後でわかること。それは戦場での働き、賢者の怒り、友の苦しみ」というのがあるらしい。いろいろ思い当たるが、「友」を義母の2人の娘とすれば、うなずけることが多い。

20:13

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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