多文化共生に向け外国人労働者受け入れ進める自治体
労働調査協議会客員調査研究員 白石利政
総務省は、在住外国人が200万人に達した約10年前、「多文化共生推進プログラム」を立ち上げ、「多文化共生の推進に関する研究会報告~地域における多文化共生の推進に向けて~」を公表した(2006年)。各自治体は、外国人居住者が増えるなか、総務省の呼びかけもあって各自治体の事情を反映した多文化共生推進プランを策定している。私は身近なところで、外国人労働者との「共生」を打ち出している出雲市と安芸高田市のプランと最近の動きに興味を持った。
5年以上継続居住外国人の割合を30%台へ-出雲市の事例
「縁結びと神々の都」出雲市のプランは2016年度~2020年を計画期間としている。2015年12月末の外国人登録者数は2,744人(市の総人口の1.57%)で、ブラジル(1,756人)が6割を超え、これに次いでいるのが中国(364人)とフィリピン(184人)である。在留資格別中の永住者は686人、定住者は950人、技能実習生は376人である。
このプランには計画期間終了時に「引き続き住んでいる(5年以上)外国人住民の割合を30%台」にするという数値目標がある(実数では732人以上で達成)。3年で帰る技能実習生は除かれ、目標の達成はブラジル人の動向にかかっている。ブラジル人約1,500人が出雲村田製作所で、請負会社2社の従業員として働いている。うちの1社が(株)アバンセコーポレーションである(「朝日新聞」2017年4月20日)。
市のプランには「外国人労働者の受け入れ企業の社会的責任」として、労働関連法令の遵守や、労働者の生活環境、家族の教育など私生活への配慮、派遣先等も含めた社会的責任を求めている。「共生」プランの成否に、外国人労働者を受け入れている企業の役割の大きいことからの要請であろう。先の(株)アバンセコーポレーションは、市のプランに先立つ2014年度に「製造請負優良適正事業者」としての認定を既に取得している。そして、この9月には外国人の生活に関する相談対応を中心に行政、学校、地域社会との懸け橋となることを目指し、「しまね多文化コミュニティ支援センター」をオープンしている。市のプランの目標達成へ向け積極的に対応している。
技能実習生にいい思い出を、いつか定住を-安芸高田市の事例
安芸高田市は広島市の中心部からバスで約1時間、中国山地に入った毛利元就ゆかりのまちである。安芸高田市のプランは2013~2017年度を計画期間としている。プランが公表された2013年の外国人登録者数は585人(市の総人口の1.59%)で、中国が2008年にブラジルを抜いている。在留資格中の永住者は143人、定住者は38人、技能実習生は299人(その大半は中国からの207人)である。
当市のプランでは「外国人市民」に「永住者」や「定住者」だけでなく、「研修生や技能実習生を含む」と明記し、企業・商工会に研修生活を行ううえでの配慮を求めている。
これには、浜田市長の思いが込められているようだ。「人口が減少していく過程で、現在の生活水準と地域社会の安定を維持するのは非常に困難です。そのために、海外からの人材を組織的に受け入れる体制を構築する必要があります。しかし、現在の日本では移民を積極的に受け入れる体制は出来ていません。市に多く住んでいる、技能研修生は3年後には本国へ帰らなければなりません。日本に慣れ日本語や仕事をマスターしても、永続的に日本で働くことはできないのです」(市長コラム第92回「安芸高田市 人口減対策の課題」『広報あきたかた』2016年4月号)。「3年で帰らなければならないが、それでも
『安芸高田でいい思い出を作って帰ってもらいたい』と、ファン作りをしている。これは近い将来、定住外国人を受け入れるべく国も制度を変えざるを得ないとみているからだ」(友森敏雄「広島の過疎の町が外国人との共生を選んだ理由」『WEDGE REPORT』2017年5月22日)。いずれ、まちづくりに外国人を必要とし、一方で外国人に選ばれるまちづくりが求められると、みている。
外国人労働者の受け入れは「『単純労働者は不可』と表玄関に掲げながら、脇のくくり戸(サイドドア)を開」いている(宮島喬/鈴木江理子「外国人労働者受入を問う」岩波ブックレット No.916)。このサイドドアから、日本人との「血」のつながりを根拠に日系3世に定住資格が認められて27年、『国際貢献』をタテマエにした外国人技能実習制度が始まって24年。人手不足が顕在化するなか、このドアはさらに押し広げられようとしている。それだけに市民としての受け入れの必要性が増している。「多文化共生推進プラン」づくりは、外国人の日本文化への統合ではなく国籍や民族の異なる人々との、多文化共生を唱っている。両市の経験は、外国人労働者との「共生」を推進するうえで、貴重な経験の積み重ねとなり、今後の課題をいっそう明らかにするものと思われ注目していきたい。