安倍長期政権を支えるもの
経済ジャーナリスト 蜂谷 隆
「大義なき解散」と強まる安倍政権批判の中で行われた衆議院選挙は、終わってみれば自民党が大勝する結果となった。小選挙区で48%の得票(全有権者の中で自民党に投票した率(絶対得票率)は25%)で75%の議席獲得というのは小選挙区制度の歪みがより明らかになったのだが、こうした結果をもたらしたのは内閣支持率が低下しているのに、自民党の支持率が高いこともあったのだろう。理由は、そこそこ維持されている生活を壊したくないという意識にあるのではないか。
こうした国民の意識は世論調査にはっきり出ている。内閣府が行った「国民生活に関する世論調査」(2017年6月)によると、現在の生活に「満足」と回答した人は、前年に比べ3.8ポイント増え73.9%と過去最高となった。また、「不満」と回答した人は前年比3.5%下がり25%で過去2番目の低さとなった。
「満足」と回答した人を年齢別に見ると年齢が若い人ほど高い。18歳から29歳の若者は約8割が満足と回答しているのである。満足感はどこから来ているのだろうか。これはよく言われるように雇用の安定によるものと見てよいだろう。低い失業率、高い求人倍率。おもしろくないと会社を辞めても転職先はある。非正規雇用で賃金の低いとはいえ、とにかく働き口はあるということなのだろう。逆に50歳台は約3割が「不満」と回答しており他の世代に比べ高い。中高年は失業率も高く転職も厳しいことを反映しているのであろう。
今回の選挙前後における各報道機関の世論調査では内閣支持率よりも不支持率の方が上回っていたものが少なくなかった。秘密保護法、安保法制、森友・加計問題などで、安倍政権に対する批判が高まっていたためである。したがって与党の議席はかなり減らすというのが当初の大方の予想であった。安倍首相はそれでも今なら過半数は十分可能と解散に踏み切ったのであろう。踏ん張れると思ったのは、やはりそこそこの生活感をもたらしている経済の維持だと思う。単純化すれば政治は不満だが、経済は満足ということなのだろう。
痛みが伴う「出口戦略」
さて経済分野で最大の問題はといえば、4年半続く黒田日銀総裁による異次元緩和の手仕舞い、すなわち量的緩和と大量の株購入の縮小である。いわゆる「出口戦略」である。日銀による国債購入の大量購入で日銀の国債保有は異次元緩和の4年半で3.4倍、437兆円まで膨らんでしまった。全国債発行残高の4割を日銀が保有していることになる。実質GDP比で83%だ。日銀が国債を買い占めるため国債市場は細り、金融機関は担保としてすら保有しにくい状況となっている。7月まで日銀の審議委員であった木内登英氏は「来年5月頃には行き詰まる」と見ている。
米国のFRB(連邦準備制度理事会)は早々と縮小に踏み切り、金利も少しずつ上げている。ECB(欧州中央銀行)も来年1月以降の資産購入量を半減する。こうした世界の趨勢に歩調をあわせて日銀も手仕舞いに向けた戦略を描く必要があるのだが、方向転換できないのは、やはり金利上昇不安が先立つからだろう。景気回復がかろうじて続いているのは、日銀の量的緩和による円安と超低金利に寄るところが大きい。株も日銀がETF(上場投資信託)を買うことで下支えしている。株価が午前中下がれば「日銀が買いに入る」と市場は認識しているという。こんなバカげたことがいつまでも続くわけがないのだが、やめたら大変ということで続けられているのだ。
ため込むリスク
安倍政権の次なる政策目標は、憲法の改正とされる。これをスムーズに進めるためには、経済の混乱は何としても避けたい。日銀は国債保有残高を年間80兆円増やすことになっているが、9月は前月比で8000億円減少させた。なし崩し的な縮小の動きである。思い切ったことはできないので、ほんのちょっとだけということなのだろう。結局、安倍政権はだらだらとアベノミクスを続けるほかない。問題先送りでリスクを膨らませることになる。