日誌


2013/08/05

メルマガ 第12号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
東京オリンピックは日本経済を歪める
                           経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

2020年のオリンピックの開催都市は東京に決まった。マスメディアを含めて異様なほどの招致運動はさておいて、東京に決まったことで、東京一極集中が加速され、日本経済(社会を含めて)が大きく歪められることを危惧する。

まず第一に大型公共事業が東京に集中することである。財政危機の中で限られた予算を地方にではなく、東京に優先的に配分されることになる。地方にお金が回らなくなる。既存の設備を最大限活用するとはいえ、それで済まないことはちょっと考えれば分かることだ。

招致委員会の「開催計画概要」を見ると各競技場や選手村など関連施設は、ほとんど晴海ふ頭や豊洲といった湾岸に集まっている。残された最後の遊休地である埋立地を開発することは、開発に手をつけた鈴木俊一都知事以来の悲願と言われている。「湾岸開発」のためのオリンピックなのだ。それ以外にも羽田、成田空港の拡張、空港と都心とのアクセス時間短縮のための地下鉄建設、橋や高速道路などインフラの老朽化対策も東京優先になるだろう。

老朽化が進む首都高について言えば、ファッションデザイナーのコシノジュンコさんが以下のような主張をしている。

「私、いろんなところに行ってますが、パリでもニューヨークでも、街の真ん中にあんな高速道路はありません。たくさんの人が集まる六本木交差点の真上にあんな高速があるって、どういうことでしょうか。撤去すれば、とたんに空が広くなる。車中心でなく人中心のまちにしましょう、という発想に変わるんじゃないでしょうか」
(朝日新聞2013年4月14日付 有田哲文編集委員の「ザ・コラム」から)

大賛成である。都心部は撤去した方がよい。隣の韓国の首都ソウルでは、高速道路を撤去し川を清流に戻したという実例もある。ようやくこうした論調に耳を傾ける動きが出てきたところなのだ。オリンピックは「街作り」の視点からもマイナスに作用する可能性がある。

「特区」は地方に

第二は、安倍政権で進めているアベノミクスの「第3の矢」として位置づけている特区構想で出ている東京特区と結合することによる影響である。まだ具体化されたわけではないが、「国際競争力をつける」という名目で、さまざまな規制緩和を行うという。猪瀬直樹都知事や経済競争力会議メンバーの竹中平蔵慶大教授が主張している。

特区を作るのであれば、沖縄とか震災復興の東北など経済的な飛躍が求められている地域にすべきである。沖縄はハブ空港・ハブ港湾施設を作る。中国、韓国、台湾だけでなく、ASEAN諸国にも便が良く立地条件が良い。法人税も減税すればいい。なぜ政府は沖縄振興を真剣にやらないのか、本当に不思議である。前泊博盛沖縄国際大学教授が現代の理論・社会フォーラムの勉強会の講師として話をされた時に、この点について聞いたところ「沖縄が本当に経済力をつけたら、基地はいらないという世論が高まると思っているのではないか」という返事が返ってきた。

東北地方の再生に絡めて、バイオマス特区など新しい時代にマッチした特区をつくる。法人税減免だけでなく、さまざまな特典をつければいい。要は地方で「経済成長」が求められ、雇用を必要としているところに作るべきなのである。

第三に地方活性化、地方分権が進まなくなることである。オリンピックを日本で開催するとしても、16年大会で国内選考を東京と争った福岡市を中心とした九州は、意味があったと思う。地方の活性化につながるからだ。

必要なのは東京の機能の分散化

地方の活性化にはいくつかのやり方があると思うが、そのひとつが東京に集中した機能を分散化することである。たとえば日本銀行と金融庁を大阪に移転する。これだけでかなり大きな意味を持つのではないか。

都心の築地市場の豊洲への移転を仲買業者などの反対にも関わらず都は決めた。ところが築地の跡地についてはまだ何も決まっていない。築地移転計画が出た07年には、都は築地の跡地にオリンピックのメディアセンターと金融センターを誘致する計画を持っていた。オリンピックと別に金融センターが復活する可能性もある。

「東京オリンピックを成功させよう」という錦の御旗を掲げ、「オールジャパン」と言われれば、地方も反対しづらい。東京の一極集中の加速と地方の劣化を促進する東京オリンピックは、日本の経済も社会も文化も歪める作用があるのではないか。


12:45

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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