東京オリンピックは日本経済を歪める
経済ジャーナリスト 蜂谷 隆
2020年のオリンピックの開催都市は東京に決まった。マスメディアを含めて異様なほどの招致運動はさておいて、東京に決まったことで、東京一極集中が加速され、日本経済(社会を含めて)が大きく歪められることを危惧する。
まず第一に大型公共事業が東京に集中することである。財政危機の中で限られた予算を地方にではなく、東京に優先的に配分されることになる。地方にお金が回らなくなる。既存の設備を最大限活用するとはいえ、それで済まないことはちょっと考えれば分かることだ。
招致委員会の「開催計画概要」を見ると各競技場や選手村など関連施設は、ほとんど晴海ふ頭や豊洲といった湾岸に集まっている。残された最後の遊休地である埋立地を開発することは、開発に手をつけた鈴木俊一都知事以来の悲願と言われている。「湾岸開発」のためのオリンピックなのだ。それ以外にも羽田、成田空港の拡張、空港と都心とのアクセス時間短縮のための地下鉄建設、橋や高速道路などインフラの老朽化対策も東京優先になるだろう。
老朽化が進む首都高について言えば、ファッションデザイナーのコシノジュンコさんが以下のような主張をしている。
「私、いろんなところに行ってますが、パリでもニューヨークでも、街の真ん中にあんな高速道路はありません。たくさんの人が集まる六本木交差点の真上にあんな高速があるって、どういうことでしょうか。撤去すれば、とたんに空が広くなる。車中心でなく人中心のまちにしましょう、という発想に変わるんじゃないでしょうか」
(朝日新聞2013年4月14日付 有田哲文編集委員の「ザ・コラム」から)
大賛成である。都心部は撤去した方がよい。隣の韓国の首都ソウルでは、高速道路を撤去し川を清流に戻したという実例もある。ようやくこうした論調に耳を傾ける動きが出てきたところなのだ。オリンピックは「街作り」の視点からもマイナスに作用する可能性がある。
「特区」は地方に
第二は、安倍政権で進めているアベノミクスの「第3の矢」として位置づけている特区構想で出ている東京特区と結合することによる影響である。まだ具体化されたわけではないが、「国際競争力をつける」という名目で、さまざまな規制緩和を行うという。猪瀬直樹都知事や経済競争力会議メンバーの竹中平蔵慶大教授が主張している。
特区を作るのであれば、沖縄とか震災復興の東北など経済的な飛躍が求められている地域にすべきである。沖縄はハブ空港・ハブ港湾施設を作る。中国、韓国、台湾だけでなく、ASEAN諸国にも便が良く立地条件が良い。法人税も減税すればいい。なぜ政府は沖縄振興を真剣にやらないのか、本当に不思議である。前泊博盛沖縄国際大学教授が現代の理論・社会フォーラムの勉強会の講師として話をされた時に、この点について聞いたところ「沖縄が本当に経済力をつけたら、基地はいらないという世論が高まると思っているのではないか」という返事が返ってきた。
東北地方の再生に絡めて、バイオマス特区など新しい時代にマッチした特区をつくる。法人税減免だけでなく、さまざまな特典をつければいい。要は地方で「経済成長」が求められ、雇用を必要としているところに作るべきなのである。
第三に地方活性化、地方分権が進まなくなることである。オリンピックを日本で開催するとしても、16年大会で国内選考を東京と争った福岡市を中心とした九州は、意味があったと思う。地方の活性化につながるからだ。
必要なのは東京の機能の分散化
地方の活性化にはいくつかのやり方があると思うが、そのひとつが東京に集中した機能を分散化することである。たとえば日本銀行と金融庁を大阪に移転する。これだけでかなり大きな意味を持つのではないか。
都心の築地市場の豊洲への移転を仲買業者などの反対にも関わらず都は決めた。ところが築地の跡地についてはまだ何も決まっていない。築地移転計画が出た07年には、都は築地の跡地にオリンピックのメディアセンターと金融センターを誘致する計画を持っていた。オリンピックと別に金融センターが復活する可能性もある。
「東京オリンピックを成功させよう」という錦の御旗を掲げ、「オールジャパン」と言われれば、地方も反対しづらい。東京の一極集中の加速と地方の劣化を促進する東京オリンピックは、日本の経済も社会も文化も歪める作用があるのではないか。