日誌


2015/07/07

POLITICAL ECONOMY 第33号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
経常収支黒字縮小に経産省の焦り
             金子文夫(横浜アクションリサーチ副代表)

 7月3日、経済産業省は2015年版『通商白書』を発表した。この白書は1947年から刊行されており、今回が67回目になるが、毎年の世界経済や日本の対外経済関係を概観するとともに、その時点での日本の対外経済政策の課題を書き込んでいる。今年の白書では、「「日本を活かして世界で稼ぐ」力の向上のために」と題した第Ⅱ部に、経産省の問題意識が表明されている。

日本の「稼ぐ力」は落ちている

 「世界で稼ぐ力」とは何か。その内容は、「輸出する力」、「呼び込む力」、「外で稼ぐ力」の三つからなる。「輸出する力」とは文字通り輸出を増やして外貨を稼ぐ力のことで、円安にもかかわらず輸出があまり伸びないのはなぜか、その要因を分析している。要因として、海外需要の低迷、企業が輸出価格を下げないことによる輸出数量の伸び悩み、国内生産から海外生産のシフトなどをあげる。特に問題点として、世界的に需要が伸びている品目に対して日本の輸出が対応できておらず、中国、米国、ドイツ、さらにはイギリス、韓国などにも遅れをとっている点が指摘される。対策として、ドイツのIndustrie 4.0、米国のI o T (Internet of Things) のような先進的なビジネスモデルへの取り組みが必要という。

 「呼び込む力」は、観光客とグローバル企業の受け入れを増やす力のことだ。観光客の呼び込みについては、確かにここ1、2年の訪日外国人数とその消費は過去最高を更新しており、白書では、受け入れ環境整備、日本の魅力(食、自然、文化)への認識の深まり、販売商品への信頼性などを要因にあげているが、円安効果、中国・台湾・韓国等の近隣地域の所得水準上昇も大きいだろう。これに対してグローバル企業の呼び込みは、なかなか実績があがっていない。対策として、イスラエル、スイス、台湾のような規模は小さくともイノベーション力のある国・地域に学ぶべきという。

 「外で稼ぐ力」とは海外に進出した企業の利益率を上げることであり、配当の全般的増加、中国進出企業の配当性向の高水準などを評価する一方、他国のグローバル企業と比較すると日系企業の力は劣っていると指摘する。2006年度から2013年度までの主要なグローバル企業の業績を比較すると、売上高成長率・営業利益成長率はアジア系、米系、欧州系、日系の順、売上高営業利益率(2013年度)は米系、欧州系、アジア系、日系の順となり、日系企業の弱さが示された。弱さの原因として白書は、日系企業の多角化戦略が成長性、収益性を下げているとして、グローバル経営力の強化を課題にあげている。

経常収支赤字転落に危機感

 以上のような三つの領域を合わせて経産省がことさら「世界で稼ぐ力」を強調するのは、日本の経常収支の黒字幅が急速に縮小し、近い将来赤字に転落するのではないか、という焦りがあるからだろう。実際、かつて大幅な経常収支黒字によって「黒字国責任」を追及された時代とは様変わりして、ここ数年の黒字幅減少は急激なものがある。すなわち、2010年の19.4兆円が2014年にはわずか2.6兆円へと激減した。2015年は若干持ち直すと予想されるが、長期減少傾向は否めない。

 その主因は2011年以降の貿易赤字の拡大であり、2014年には10.4兆円の赤字を計上した。これをカバーするのが海外投資収益の還流による第一次所得収支の黒字であり、2014年は18.1兆円を記録した。サービス収支は、訪日外国人が増えたといっても全体として赤字項目であって、総合的にみれば経常収支黒字をいつまで維持できるか、経産省の懸念は今後も解消しないのではないだろうか。


08:56

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

会場が変更になりま
した。


第46回研究会

「高市経済政策は
何を目指している
のか!」

講師:松尾匡氏(立

  命館大学経済
  学部教授)

日時:
2026年1
  24日(土)
   14時~17

場所:専修大学神田校
舎10号館11階10115教
室(千代田区神田神保町
2-40地下鉄神保町駅A2
出口、徒歩約3分
資料代:1000円
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これまでの研究会

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)


第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)

第45回研究会(2025年10月25日)「トランプ関税でどうなる欧州経済」(東北大学名誉教授 田中素香氏)


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