14春闘「ベア0.5%」の政治経済学
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢
2014年春闘の回答が出揃い、ほぼ大勢が固まった。連合の491組合の集計によると、平均賃上げ額は6491円、2.16%であった。この数字は「定期昇給+ベア」なので、ベアのみを平均すると1979円、率で0.44%である。個別組合の回答を見ると、トヨタが0.76%、日立0.65%、また筆者が独自に集計した連合大手30組合の平均は0.64%である。このようにベアの大勢は、連合集計の0.44%からトヨタの0.76%の間に分布しており、丸めて0.5%辺りが春闘相場になるとみていい。
春闘回答にがっかりしたのは安倍首相!?
この回答結果を見て、がっかりしたのは安倍政権ではないか。14春闘を主導した安倍内閣としては、アベノミクス実現のために2%とはいかなくても、せいぜい1%近くには届いて欲しかったろう。
4月から消費税が上がった。内閣府は、4-6月期のGDPへの影響をマイナス1%と試算、民間シンクタンクはマイナス4%台とする予測が多い。だが、筆者は2%程度に収まるとみているが、これは日本総研の湯本副理事長など少数派だ。それでも、ベア0.5%では、これをカバーできない。「6月危機」の到来か。
でも、6月は夏のボーナス(一時金)の支給開始月。春闘とは、所定給与のベースアップに一時金を加えた年間給与総額の引き上げ総原資をめぐる労使の攻防である。今春闘のベアは0.5%に止まったが、一時金はトヨタ・日産など有力どころが満額回答、トヨタは6・8か月・247万円で、昨年に比べ20%アップとなった。トヨタの大盤振る舞いはちょっと別世界の話なので横に置くとして、電機の日立や三菱は2%アップ、こっち方が世間相場になろう。年間給与総額に占める一時金のウェイトは20.5%だから、一時金の引き上げ効果は0.41%だ。以上、ベアと一時金を合せると0.91%、まあ丸めて1.0%である。
これでは、アベノミクスの実現のため雇用者報酬の2%アップが必要と考えてきた安倍内閣としては、目標の半分にも届かない。このままだと、7-9月期も消費税の落ち込みをカバーできず「9月危機」か。
政府は、公共事業の早期繰り上げ着工で対応しようとしているが、労働力不足でデッドロック。手っとり早くできることは、原発再稼働で経済を元気づけることだが、これまた先行き不透明だ。そうなると日銀の追加緩和しかないが、これも海外ヘッジファンドにはアベノミクスの先行き懸念と受け取られかねない。
非正規春闘の高額回答は明るい材料
だが、この春闘には明るい兆しがひとつあった。非正規春闘の高額回答である。連合集計では、非正規労働者の賃上げは時給で12円アップに止まった。しかし、これは5万人組織のJP労組の回答10円を含めた加重平均の数字だけを発表した連合のミスリードだ。実際の連合回答は20円台、30円台の回答が相次いでおり、筆者が異常値を除いて集計した時給改善の実勢は22.4円、2.4%アップと“絶好調”だ。時給20円アップは月給ベースに換算すると3200円、30円だと4800円アップと、トヨタのベア2700円を大きく上回る。
加えて、非労働力であった人が働き出して就労人口が急増、その大半が非正規労働市場に流れ込んでいる。当然その分の雇用者報酬が増え、もともと収入ゼロだったので、100%アップである。この効果が持続的に継続すれば、2014年度の雇用者報酬は政府が目指す2%増が視野に入る。
こうなれば、経済の好循環で7-9月期には成長軌道に回復するが、それができないと来年の消費税引き上げもダウンし、アベノミクスはヤバイ。はたしてどうなるか。