農民と農村の崩壊はいずれ都市を直撃する
元新潟県教職員組合員 南雲 明男
経済学者の宇沢弘文氏は、「社会的共通資本」という理念から市場原理に委ねてはいけないものがある、大気や水道、教育、報道など地域文化を維持するには一つとして欠かせないと説き、自由貿易で農を見捨ててよいのかとも指摘しています(朝日新聞2013.12.8)。さて、現在進行中のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、企業(資本)と各国の支配的利益を巡る衝突の局面なのでしょう。「産業として成り立つ強い農業・農村の創造」を掲げる自公(安倍)政権に騙されても裏切られつづけても「信じて」ついていく多数の国民を斜めに見ながら、田舎に生きるわが身と取り巻く風景を少しお伝えできたらと思います。
私の結論を先に述べましょう。(1)田舎は都市から強制的に割り当てられた従属的な役割を返上すべきです。(2)田舎に暮らす人々(住民)は、地産地消を第一にして生活を成り立たせることに関心を寄せるべきです。(3)農業(家庭菜園)を営む人々は、種のF1交配種(一代雑種)の支配から自家採種の復権に活路を求めることができるでしょう。(4)地方(田舎)の自立なくして都市との共存も社会の変革の道筋も見出されないように思われます。
農業に限定すれば政府や財界の「産業としての農業」で規模拡大と農業への企業参入に利益を見出しているのでしょう。 しかしこれでは、対極にある農民と自然が置き去りにされ「農業生産の減少・高齢化・農業所得減少・耕作放棄地増大・過疎化」(北林寿信)などの加速を改善できません。
都市も高齢化
資本主義社会は何をおいても企業の進展の歴史なのだと感じます。企業によって作り出された都市と田舎(農村)の対立は、相互に収奪と喪失の歴史でもあります。一人暮らし高齢者の存在のように共通な事象もあります。4月12日の朝日新聞(以下同じ)によれば、2035年には762万人の独居老人世帯(東京104.3万人、大阪64.5万人、神奈川57.4万人)となるそうです。人口の増減も過疎問題も企業の欲望とナショナリズム政治の癒着が改善を阻む元凶です。
3月29日付けで「2050年、国土の6割無人に」と報じました。日本の面積約38万平方kmのうち約18万平方kmに人が住んでいるが、50年にはその2割が無人化し、6割で人口が半減するという。この人口減少(出生率の低迷)は1960年代の高度経済成長期から都市への人口流出・社会減少が引き金でした。
その後の農村(地方)の過疎化と限界集落・山村崩壊は、親世代が農村に残り農林地を管理し生産を担っていたのですが、親世代の引退する自然減少の中で顕在化してきました。もちろん、工業都市の衰退でも限界集落が生み出されます。新宿区の都営戸山団地(2008年)のように都心の姥捨山(うばすてやま)の感を呈しているところもあります。
個々人はこれらの理不尽な格差の運命に身をさいなまれます。これが個人の問題なら知らぬ顔の半兵衛でも可能でしょう。農民と農村の崩壊はいずれ都市を直撃するに違いありません。
(注)限界集落(大野晃):65歳以上の高齢者が集落人口の50%を超え、冠婚葬祭をはじめ田役、道役などの社会的共同生活の維持が困難な状態にある集落。老人夫婦世帯、独居老人世帯が主。
8年後、農業就業人口は半減する
自民党には農業政策があっても農民政策・自然の保持政策がないといわれています。
全国の年齢別農業就業人口比率は次のごとくです(大石尚子)。39歳以下7%、40~49歳5%、50~59歳12%、60~69歳27%、70~74歳16%、75歳以上33%で構成されています(2012年)。8年後の2020年には70歳以上の49%の農民が80歳を超えてリタイアするでしょう。
中山間地農業地域に住む人口は、2000年の全国人口12,693万人のうち1,628万人(12.8%)でした。2012年では12,806万人のうち1,470万人(11.5%)であり158万人の純減です。都市的地域が3.3%増加している中で、山間地農業地域は14.9%の減少なのです。
人口減少と高齢化は限界集落から消滅へと帰結します。1999年と2006年調査で191集落が消滅(27.3集落/年)。2006年から「10年以内に消滅する」可能性のある集落は423(42.3集落/年)でその激しさが分かります。古里(故郷)が遠くにあるのならまだ訪れることもできます。人の住まない原野と化した土地にひとのぬくもりを抱けるでしょうか。