日誌


2014/03/13

「グローカル通信」 第4号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
農民と農村の崩壊はいずれ都市を直撃する

                       元新潟県教職員組合員 南雲 明男

 経済学者の宇沢弘文氏は、「社会的共通資本」という理念から市場原理に委ねてはいけないものがある、大気や水道、教育、報道など地域文化を維持するには一つとして欠かせないと説き、自由貿易で農を見捨ててよいのかとも指摘しています(朝日新聞2013.12.8)。さて、現在進行中のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、企業(資本)と各国の支配的利益を巡る衝突の局面なのでしょう。「産業として成り立つ強い農業・農村の創造」を掲げる自公(安倍)政権に騙されても裏切られつづけても「信じて」ついていく多数の国民を斜めに見ながら、田舎に生きるわが身と取り巻く風景を少しお伝えできたらと思います。

 私の結論を先に述べましょう。(1)田舎は都市から強制的に割り当てられた従属的な役割を返上すべきです。(2)田舎に暮らす人々(住民)は、地産地消を第一にして生活を成り立たせることに関心を寄せるべきです。(3)農業(家庭菜園)を営む人々は、種のF1交配種(一代雑種)の支配から自家採種の復権に活路を求めることができるでしょう。(4)地方(田舎)の自立なくして都市との共存も社会の変革の道筋も見出されないように思われます。

 農業に限定すれば政府や財界の「産業としての農業」で規模拡大と農業への企業参入に利益を見出しているのでしょう。 しかしこれでは、対極にある農民と自然が置き去りにされ「農業生産の減少・高齢化・農業所得減少・耕作放棄地増大・過疎化」(北林寿信)などの加速を改善できません。

都市も高齢化

 資本主義社会は何をおいても企業の進展の歴史なのだと感じます。企業によって作り出された都市と田舎(農村)の対立は、相互に収奪と喪失の歴史でもあります。一人暮らし高齢者の存在のように共通な事象もあります。4月12日の朝日新聞(以下同じ)によれば、2035年には762万人の独居老人世帯(東京104.3万人、大阪64.5万人、神奈川57.4万人)となるそうです。人口の増減も過疎問題も企業の欲望とナショナリズム政治の癒着が改善を阻む元凶です。

 3月29日付けで「2050年、国土の6割無人に」と報じました。日本の面積約38万平方kmのうち約18万平方kmに人が住んでいるが、50年にはその2割が無人化し、6割で人口が半減するという。この人口減少(出生率の低迷)は1960年代の高度経済成長期から都市への人口流出・社会減少が引き金でした。

 その後の農村(地方)の過疎化と限界集落・山村崩壊は、親世代が農村に残り農林地を管理し生産を担っていたのですが、親世代の引退する自然減少の中で顕在化してきました。もちろん、工業都市の衰退でも限界集落が生み出されます。新宿区の都営戸山団地(2008年)のように都心の姥捨山(うばすてやま)の感を呈しているところもあります。

 個々人はこれらの理不尽な格差の運命に身をさいなまれます。これが個人の問題なら知らぬ顔の半兵衛でも可能でしょう。農民と農村の崩壊はいずれ都市を直撃するに違いありません。

(注)限界集落(大野晃):65歳以上の高齢者が集落人口の50%を超え、冠婚葬祭をはじめ田役、道役などの社会的共同生活の維持が困難な状態にある集落。老人夫婦世帯、独居老人世帯が主。

8年後、農業就業人口は半減する
   
 自民党には農業政策があっても農民政策・自然の保持政策がないといわれています。

 全国の年齢別農業就業人口比率は次のごとくです(大石尚子)。39歳以下7%、40~49歳5%、50~59歳12%、60~69歳27%、70~74歳16%、75歳以上33%で構成されています(2012年)。8年後の2020年には70歳以上の49%の農民が80歳を超えてリタイアするでしょう。

 中山間地農業地域に住む人口は、2000年の全国人口12,693万人のうち1,628万人(12.8%)でした。2012年では12,806万人のうち1,470万人(11.5%)であり158万人の純減です。都市的地域が3.3%増加している中で、山間地農業地域は14.9%の減少なのです。

 人口減少と高齢化は限界集落から消滅へと帰結します。1999年と2006年調査で191集落が消滅(27.3集落/年)。2006年から「10年以内に消滅する」可能性のある集落は423(42.3集落/年)でその激しさが分かります。古里(故郷)が遠くにあるのならまだ訪れることもできます。人の住まない原野と化した土地にひとのぬくもりを抱けるでしょうか。

11:41

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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