日誌


2018/02/23

POLITICAL ECONOMY 第112号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
広島を活気づける3大プロスポーツ

                                      労働調査協議会客員調査研究員 白石利政

 市内を走るJR西や広島電鉄で、広島東洋カープやサンフレチェ広島F.Cの応援ラッピングトレインやバスに乗り合わせることもまれではない。2013年創設のプロバスケットボールの広島ドラゴンフライズもマツダの協力を得てラッピングカーをチームのプロモーションカーにしているそうだ。広島ではプロスポーツを身近に感じる機会が多い。今回は広島3大プロスポーツの近況報告である。

瞬間視聴率71%、広島東洋カープ
-2018年のスローガンは「℃℃℃」

 ホームはMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島。2017年の売り上げは約188億円、4年連続して売り上げの最高を更新している。これは、「健全経営」(=ケチ経営。選手の年俸総額、平均年俸は2,767万円で、ともに12球団中11位。自前で選手育成し年俸が高くなると他球団へ送り出すなど)、グッズ販売、ホームのボールパーク化など売り上げ増を図る工夫、そしてファンの応援あってのことである。

 ファンの応援のすごさは、スタンドを真っ赤に染め、オバアさんから子どもまでのカープ女子の定着で誰もが認める。今でも思い出すことがある。2016年9月10日の25年ぶりのリーグ優勝のかかった巨人戦(東京ドーム)、全国放送されたNHKの広島地区での平均視聴率は60.3%(関東地区では16.8%)、瞬間視聴率は71.0%、尋常ではない。

 広島県におけるカープの2017年の経済効果は250億円、雇用効果は3,190人で、2年連続の高水準を維持した(「エネルギア地域経済リポートNo.523」)。

 この3月1日には、今年のマツダスタジアムの指定席が発売され、もみじ銀行や広島銀行で金利を上乗せする定期預金の募集を始めた。日本一へ向けての準備は整っている。

再飛躍目指すサンフレチェ広島F.C
-今年のスローガンは「WE FIGHT TOGETHER 2018 ICHIGAN」

 ホームは広島広域公園陸上競技場。この5年間にJリーグの年間1位を3回制覇、しかし2016年は6位、昨年は15位でどうにか降格を免れた。今年は社長も監督も交代。新社長は新監督について「育成型チームの再構築を任せるには適任と判断しました」と語っている。

 2016年の決算は、営業収益は37億9,400万円、営業費用は34億3,500万円、当期利益は3億1,200万円の黒字。黒字決算は5年連続である。ちなみに2016年の登録選手(30人)の平均年俸は2,539万円(平均年齢27.0歳)で、これはJ1(18チーム)中4位。気になるのは観客動員数(262,888人)が前年に比べ5.6%減ったことである。チームの経営は安定しているもののファンの盛り上がりと広がりに課題を残している。

 現在、アクセスのよいサッカー専用グランドが検討されているが県・市・広島商工会議所の「広島みなと公園案」とサンフレチェ経営陣の「旧市民球場跡地案」が対立、その後「中央公園案」も浮上し結論には至っていない。一時も早い決着で飛躍が期待される。なお、広島県信用組合では「サンフレッチェ広島応援定期預金」の呼びかけを始めている。今のところ3連勝で出足は好調である。

育成重視の広島ドラゴンフライズ
-2016-2017シーズンのスローガンは「最大の挑戦 UNITED WE STAND 2016-2017」

 ホームは広島サンプラザホール。所属リーグはB.LEADUE、カンファレンスはB2西地区である。創設間もないチーム編成は育成重視である。

 2016年度の営業収入は2億7,333万円、営業費用は3億688万円(うちトップチーム人件費は35.9%)、当期利益は3,791万円の赤字である。

 会長の福岡慎二氏は「財務体質が脆弱だ。(3月1日に)B1のライセンス交付を受けることができたが、単年度の黒字と累積損失を一掃するという2つが条件だった。……18年6月期は何としてでも黒字に転換する」。そしてチームの目標については「B1に昇格してから5年以内に優勝する」と語っている(日本経済新聞 地域経済 2017年4月19日)。

 Basketballnavi.DBによると「契約選手数は12名(うち外国人は3名)で、ホームでの平均入場者数は1,818人」(年間試合数60回中41回)。昨年12月9日(土)の岩手ビッグブルズ戦では4,545人でクラブ最多を記録した。飛躍の可能性はある。

 広島3大プロスポーツでは、選手はスキルを磨き、ファンは選手の成長を見守り勝敗に一喜一憂し、経営は、急がば回れ、長期視点に立って若手を育成することを方針とし経営の安定に努めている。行政もホームの提供や整備などで協力している。経営の規模や状況は異なるものの地域経済の活性化にも一役買っている。そして広島3大プロスポーツは広島の「個性」をも育んでいる。


10:43

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

LINK

次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告