日誌


2018/02/13

POLITICAL ECONOMY 第111号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
東京への一極集中は止まらない
                                                                                  経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

 東京への過度な人口集中が続いている。1月に公表された総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると2017年の東京都への転入超過数(転入者-転出者)は7万5498人と5年連続で7万人を超えた。東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)で見ても11万9779人と4年連続で10万人を上回っている。東京圏の自然増減(出生数-死亡数)は、2万8194人の減少と前年に比べ1万1903人も減少している。2012年に減少に転じて以降、減少幅を増やしている。減少する一方の自然減を転入超過で補い、人口を増加させているのである。

 多くの人はもう忘れてしまったかもしれないが、安倍政権は2014年に地方創生担当大臣のポストを創設、「地方創生法案」を成立させ、さらに「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」を閣議決定した。当時、地方創生は安倍政権の旗印だった。そのビジョンでは、東京都の転入超過数を2020年にはゼロにするという目標を掲げていたのである。東京へ東京へと向かう人の流れをくい止めると宣言していたのだ。ところがあれから3年、何もしてこなかったことをこの数字は物語っていると言えるだろう。

 いや、何もせず手をこまねていたのではない。逆に一極集中を加速させてきたのである。たとえば都心の高層マンション建設の規制を緩和し、中央区や江東区にタワマンが林立するようになった。野澤千絵氏の「老いる家 崩れる街-住宅過剰社会の末路」(講談社現代新書)によれば、小泉改革と石原都政による「都心居住の推進」と「市街地の再開発」を銘打った規制緩和が行われ、リーマン・ショック後に動き出したという。

 特にアベノミクスの異次元緩和によって、あふれ出たマネーが不動産業界に流れ込んだことが事態を増長させている。不動産価格の上昇と建設ラッシュ、そこに投機マネーが流れ込んだのである。都心のマグネットの磁力を強めれば人の流れは東京(それも都心)に向かう力が強まるのは当然だろう。

東京都区部からの転出者の半分が近隣3県

 東京都の転入超過数のうち圧倒的に多いのは、いうまでもなく東京都区部で、23区すべてが転入超過となっている。各区の転入者、転出者数を年齢別に見ると、0~4歳は千代田区を除いた22区が転出の方が多い。転入が多いのは20歳代である。30歳代になると転出が増える。中野区、杉並区など10区は転出超過になっている。他の区は転入者の方が多いが、20歳代に比べるとぐんと減っている。つまり大学入学や就職などで都内に転居し、同棲や結婚あるいは出産すると都区部から出ていくというのがひとつのパターンになっているのである。

 この人たちはどこへ転出しているのだろうか。東京都区部の人達の転出者数は30万0748人だが、このうち神奈川県など3県は13万7423人である。なんと46%も集中しているのだ。さらに横浜市、川崎市、さいたま市、千葉市への転出者数は4万3676人となっている。東京都区部からの転出者の7人に1人は東京圏の大都市に移動したことになる。

 この中で際立っているのが川崎市だろう。東京都区部から1万8118人転入している。隣接している横浜市は2万494人に過ぎない。川崎市の人口が横浜市の4割に過ぎないことを考えると、なだれ込んでいると言っても過言でないだろう。しかも川崎市は東京都区部に対して転入超過(横浜市は転出超過)となっているのだ。

 これは川崎市が多摩川を境に東京都に隣接しており都心に近い(約20km)ことや都内に比べ地価が低いこともあるだろう。恐らく東京都内の若者の転出の受け皿になっているものと見られる。こうしたこともあって同市の人口は増加の一途をたどり、川崎市内を縦断する南武線は、都心へと向かわないにもかかわらずピーク時の混雑率は190%となっている。

 特に有名になったのが武蔵小杉駅である。ここは東横線と南武線が交差しているが、2010年からすぐ近くを通るJR横須賀線の駅を開設したことで、利便性が高まったこともあり、相次いでタワーマンションが建てられた。ラッシュ時には横須賀線改札口に長蛇の列ができ、狭い横須賀線ホームに人があふれ「相当危険な状態の混雑になっている」と福田紀彦市長が指摘せざるを得ない状況になっている。にもかかわらずタワーマンション建設が続いている。

 まとめると地方から東京圏に集中する人口移動は依然として高い水準で推移している。東京に転入した人達が次に向かうのは東京圏内でそれも大都市4市に集中している。3県、4大都市から東京都区部に向かう人も多いので、東京圏内で移動し地方にほとんど向かわず滞留していることになる。そしてもうひとつ。東京圏と言っても都心を軸にした輪は少しずつ狭まってきている。都心から20km、30km圏内でかろうじて転入超過となるということのようである。
 
 


17:38

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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