介護の背後でうごめく邪悪な面々
元新潟県教職員組合員 南雲 明男
筆者は昨年12月、新潟の介護施設の一事例を報告しました。その続報です。
元総務相増田寛也ら日本創成会議は、「地方消滅」レポートの論争の渦中にある中で、またまた高齢者の要介護老人を東京圏(1都3県)から地方に移住させる必要があると提案しました。この結論的評価を先に言えば、後期高齢者の増加を、介護施設と介護産業を新たな市場経済段階に引き上げる機会とみる提言であり、人間をモノとみる資本・企業を鼓舞する論理が透けています。
10月2日の朝日新聞に、ワタミ(居酒屋チェーン大手)が介護事業(全国125カ所)を損保ジャパン日本興亜に210億円で売却することが報じられました。報道されない事例が各地で先行していると思われます。水面下で利益を求めて弱肉強食の競争がうごめいているのでしょう。その一例を新潟の例からもみてみましょう。
新潟市秋葉区(旧新津市)の社会福祉法人「心友会」の斎藤政夫元理事長は、独善とずさんな運営、サービス残業など私的利益を追求してきました。働く職員にとってはブラック法人に他なりません。あまりのひどさに新潟県から行政処分を受け、背任罪で逮捕、起訴(2014年10月)されているのですが、事態は一向に改まりません。
この法人に第四銀行は13億円の融資をこれまで行ってきました。地方銀行にとっては、法人の倒産にでもなれば焦付き大きな損失を免れません。銀行は金融業の本領を駆使して法人の存続を図って事態を隠ぺいしているのです。
逮捕起訴された元理事長が自ら探してきた弁護士が、福井大海(元公安調査庁総務課長)というヤメ検で、最初起訴されないためにと1000万円の弁護料を取り、起訴後は無罪を勝ち取るためにはあと1000万円必要だと要求したそうです。さすがに元理事長にそんな大金もなく今年5月ごろ福井弁護士を解任しました。「基本的人権、社会正義の実現」の使命を掲げる福井弁護士らは、心友会法人をある関東の企業に23億円(一説には50億円)で売り渡す画策をしていたといいます。また、石川県でも同じような案件を持っていると話していたそうです。
介護現場に浸透する市場原理
これらの事例は、増田提言に先行し呼応するかのごとく、大手企業が地方の介護施設を傘下に収めるべく暗躍している氷山の一角にすぎません。マスコミや知識人が言及しない水面下の事柄と申さねばなりません。
元理事長が就任を依頼した現在の社会福祉法人「心友会」理事長は、小泉内閣で農林副大臣を務めた栗原博久です(2013年参院選で日本維新の会から比例区で出馬落選)。彼には暴力団とのつながりを含めて黒いうわさが常に付きまとっています。上が上ですからまじめな人は早く辞めてしまい、悪質な職員しか残っていないというのです。入所者の介護は、生きている幸せが担保されているのでしょうか。訴えることも声も出せない入所者、被害が出ないことを祈るのみです。
増田提言の本質は、介護の領域に市場経済に適合するように介護老人を再配置=移住させる政策です。この経済的自由主義の下で推進される経済・社会政策によって、さらに市場社会が創出されるからです(カール・ポランニーの示唆から)。