相模原市の障害者施設殺傷事件
ヘイトクライムにいたるプロセスの検証を
街角ウォッチャー 金田麗子
相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件は、社会に大きな衝撃を与えた。
事件後様々な議論が行われている
1、優生思想とヘイトクライムに基づいた障がい者に対する差別意識
2、過酷な労働条件と暴力が蔓延しているブラックな職場としての障がい者施設
3、再発防止のための措置入院の見直しと精神障害者差別
4、障害者施設の安全確保体制など
ナチスを持ち出すまでもなく、日本では1996年まで、「優生上の見地から不良なる子の出生を防止する」ことを目的に「優生保護法」が現存していた。現在でも「出生前検診」で命の選別が行われている。日本の中に「優生思想」は脈々とあり、何よりも被害者が匿名で扱われていること自体が、過酷な差別の結果といえる。
事件後私の勤務先である知的障害者グループホームの利用者の一人は3日間、居室に引きこもった。存在を否定されるメッセージが大量に流されていて、当事者は不安で怖いだろうと感じた。
施設職員のメンタル面のリスクと膨らむ差別意識
一方ネットには、ブラック化した職場である障害者施設の現状と、職員から障害者へ、あるいは障害者から職員への暴力的言動の実態があふれている。
私の職場でも、職員や他のメンバーに威嚇的行為、発言をしてしまう利用者はいる。ある職員は利用者に対するいら立ちとストレスで、パニック障害を発症し半年間休職した。
厚生労働省が2014年に行った調査によると、障害者に対する虐待2266件のうち、職員が加害者の件数は263件455人だったとある。隠し撮りした、職員による暴力行為の映像が流された事件は記憶に新しいところだ。本件の加害者も虐待行為を行っていた。
介護職場は、低賃金で労働条件が過酷なことから、離職率が高く慢性的人手不足の現場だ。介護労働者の中途採用率は84.7%と高く、適職かどうかではなく、雇用の受け皿として入職してくる実態がある。加害者自身も同様だった。
特に重度の障害者の介護は、心身共にきつい仕事であるが、社会的評価は低く「怒り」「焦燥感」「落ち込み」などメンタル面のリスクが大きい。
一方で介護対象に対しては、よほど自覚しないと、無力な存在として「優越感」や介護職の「万能感」を持ちやすく、差別意識が膨らむ。だからこそ他者の命と尊厳を扱うことについて、定期的なスーパーバイズが不可欠だが、実施状況はどうだろうか。
施設職員の経験を経て、加害者が何故ヘイトクライムに向かったのか、こそが検証されなければならない。障害者施設や介護職の持つ課題として検討される必要がある。加害者は措置入院が解除されて以降、失業状態が続き、短期間生活保護を受給していた。奇矯な言動から家族、友人も去り、社会的な絆を失った「貧困」状態の若者だった。
何故「貧困」状態の若者は、ヘイトクライムによる個人テロ、殺傷行為を実行したのか。ヘイト思想、スピーチをすることと、殺人を実行することには大きな飛躍がある。
加害者は事件前に精神保健法に基づく措置入院をしていた。薬物の反応も出ている。そのため、政府、自民党関係者から、措置入院とその後の対応を見直す動きがある。ずっと隔離しておけ、退院後もGPSをつけて見張ってろという主張は、加害者が言うところの障害者抹殺論とかわりはない。精神障害者への差別偏見が助長されるだけだ。
加害者の責任能力問題を慎重に検証するのは当然だろう。これほどの被害者を出して、死刑にしなければ国民感情が許さないというなら、彼の思うツボだ。
施設の安全確保を口実に、障害者を不便な山中の大きな塀の中に閉じ込めるような検討をしてはならない。ますます障害者を隠された存在に追いやるだけで、差別の温床になるだけだ。
様々な人々が、街中に混在して生きる社会でありたいものだ。