EU混迷の最大の要因はドイツの頑迷・蒙昧な石頭
経済アナリスト 柏木 勉
EUは英国の離脱や長期化する不況の下で深刻な状況にある。英国の離脱ショックでイタリアの銀行危機が進行、ギリシャ問題も何ら解決できず、ドイツを除くEU域内の成長は低迷。このような現状を招いたのは端的にいえばドイツの頑迷な石頭である。今回はドイツの石頭をとりあげるが、ギリシャ危機における第一次支援とその後の緊縮財政の押し付けについてだけ触れたい。
ギリシャ危機で独仏銀行は経営責任を国民負担に転嫁
EUの近年の混迷はギリシャ危機の真相隠しから拡大した。独仏等の大銀行(以下、独仏銀行と記載)は、腐敗した特権的富裕層が支配するギリシャの国債を大量購入し大儲けした。ところがゴールドマン・サックスが深く関与したギリシャの財政赤字のごまかしが暴露され、独仏銀行保有のギリシャ国債は大きく下落し始めた。独仏銀行は巨額損失を被るという瀬戸際に立たされたのである。EU各国はギリシャ第一次支援に乗り出したが、ここで大きな問題のすりかえと真相の隠蔽が行われたのだ。そのメカニズムとは以下の通りだ。
①まず、欧州委員会(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の三者からなるトロイカがギリシャに融資をする。同時にECBがギリシャ国債購入に出動する。
②融資によって、ギリシャ政府は独仏銀行保有のギリシャ国債の償還を行う。またECBによる購入は独仏銀行への直接的支払いになる。
これが独仏銀行の売り抜けだ。これで彼らの保有するギリシャ国債は激減し、反対にトロイカの保有するギリシャ国債は激増した。同時にギリシャ政府の債務も膨らんだ。
つまり、独仏銀行は暴落しつつあった国債をトロイカという公的機関(国民の税金からなりたっている)に移しかえ、巨額損失を回避してEU各国の国民負担にすりかえたのだ。
だが、この銀行救済自体は当時からすれば、やむをえなかったかもしれない。大銀行を救済しなければスペイン、イタリアをはじめEU全域にわたる第2のリーマンショックが懸念されたからだ。
しかし、投資してはならない腐敗した特権層が支配するギリシャに対し、大規模投資を行って利益をあげ、それが公的資金の投入という大きな国民負担を引き起こしたのだ。
だから、独仏銀行とその経営陣の責任を公的に追求し、責任をとらせるべきだった。ところが彼らの責任は全く問われることはなく、特にドイツにおいては「ギリシャは借りた金は返せ」という「国民と国民への対立」へと問題がすりかえられた。その上で腐敗特権層も一般国民もひとしなみに、ギリシャ国民に対し極端な緊縮策を強いてきた。その結果は明白だ。緊縮策によりギリシャのGDPは25%も落ち込み、政府債務の対GDP比は大幅に上昇、借金返済は不可能になっている。それでもドイツは緊縮策の失敗を認めようとしない。
「貯蓄が全て」の頑迷な石頭
その後もドイツは非救済条項(財政赤字の拡大防止のため、EU加盟各国間の財政支援を禁止)を盾に、不況で苦しむ各国に緊縮策を押し付けてきた。だが、深刻な不況下での緊縮策は、借金返済の元手自体(GDP)を激減させる。返済しようにも出来なくなるのだ。
緊縮策押しつけが可能であったのは、ドイツ経済が好調で模範のようにみなされてきたからだ。しかし、ドイツは消費不足、投資不足だ。それはドイツ人風に言えば「貯蓄が好きだから」ということになる。財政はもちろん黒字つまり貯蓄超過だ。貯蓄超過だから内需は当然落ち込んでいく。カバーするのが輸出と海外直接投資だが、輸出の好調はドイツにとってユーロが割安だったからである。なぜかといえば他国が不況で競争力が弱いので、ユーロ全体が弱くなりドイツにとって割安になったのだ。他方、対外直接投資と東欧諸国からの安い労働力はドイツ労働者への脅しになっている。このように企業利益だけが伸びるドイツ経済はEU域内諸国の成長に恩恵をもたらすことはない。従って、貯蓄偏愛で自国の内需を他国に開放せず、緊縮策を押し付けるドイツに対し、大きな反感が生まれている。
ドイツの貯蓄偏愛はつき詰めれば財政政策、金融政策ともに不必要になる。財政出動は財政赤字につながる、金融政策もインフレにつながり貯蓄を台無しにする、だからダメというわけだ。これでは経済政策も経済学も不要だ。現に戦後のドイツからは世界的経済学者は一人も出ていない。このようなドイツが力を持つEUは問題解決能力を著しくそがれている。現在の大きな問題は、「最後の貸し手」という中央銀行(ECB)の最重要機能に対し、ドイツがことあるごとに反対してきたことだ。ギリシャ、スペイン、イタリア、ポルトガル等の問題は、ECBがこれらの国の国債を早期に購入すれば、もっと早く沈静化していただろう(ドイツはそれにことごとく反対した)。
ドイツの頑迷な石頭をすげかえなければEUの未来はないだろう。