卵が先か鶏が先か—新幹線新駅構想
神奈川県寒川町議 中川 登志男
私が議員を務める神奈川県寒川町は、東側に「江の島」で有名な藤沢市、南側に「サザン」で有名な茅ヶ崎市、西側に「七夕まつり」で有名な平塚市が隣接する、湘南海岸から内陸に数km入ったところにある、人口4.8万人、面積13㎢の町である。
町には南北にJR東日本の相模線(単線)が通り、だいたい15〜25分間隔で4両編成の電車が細々と走っている。町内には南側から順に「寒川」「宮山」「倉見」の3駅があるが、この倉見駅付近には東西にJR東海の東海道新幹線が走り、数分おきにごう音を立てて高速で新幹線が通過していく。
この東海道新幹線の新横浜〜小田原間(51.2km)のほぼ中間にある倉見駅付近に新駅を誘致しようというのが、新幹線新駅構想である。
もともと1970年頃から、寒川町倉見地区の他に、西隣の平塚市や2つ東隣りの綾瀬市などで新駅誘致活動が行われていたが、誘致地区は、97年に相模線が南北に通る寒川町倉見地区に一本化された。だが、現在もなお新駅が設置されそうな雰囲気はない。
理由の一つは、JR東海が新駅設置に消極的なためだ。東海道新幹線は過密ダイヤであり、新たに中間駅を設置すると列車到着分のロスなどで、設定できる列車本数の減少につながるからである。リニア中央新幹線が開業し、東海道新幹線の輸送力に余裕が生じた場合などに検討対象になる、としているが、恐らくJR東海の本音としては、どれほどの利用客があるか分からない新駅の設置に余計な投資をしたくない、ということなのだろう。
県や町は、倉見地区のまちづくりを進めた上で新駅誘致につなげたいとしている。しかし、新駅設置の見通しが立たないと、土地の提供など、同地区の地権者が協力しにくいというのも事実だ。まちづくりをした上での新駅誘致か、新駅誘致が決まった上でのまちづくりか、進め方に難しい部分がある。
JR東日本とJR東海の確執
また、JR東日本と東海との協調も課題だ。倉見駅が相模線と東海道新幹線との乗換駅になるとしても、JR東日本の相模線が今のように15〜25分に1本という運転間隔では、どれほどの乗り換え客があるか分からず、東海道新幹線を運行するJR東海としても心もとない。だが、JR東日本にしても、東海道新幹線が倉見に新駅を設置するのなら相模線を増発しても良い、というスタンスなのだと思う。要は、JR東日本も東海も相手の出方待ちなのだ。
JR東日本と東海との不仲は鉄道関係者の間では有名で、なぜ東京駅で丸の内側から順に、7〜10番線の東海道・高崎・東北・常磐線(JR東日本)、20〜23番線の東北・上越・北陸新幹線(同)、14〜19番線の東海道新幹線(JR東海)という変則的な並びになっているかと言えば、JR東海が14〜19番線という数字に固執して、東北・上越・北陸新幹線ホームの設置時に、その数字を東日本に頑として譲らなかったからである。
逆に、品川駅の東海道新幹線のホームが妙に狭く、ホーム上に売店が設置できなかったのは、同ホーム設置に際して、JR東日本が東海に必要最小限しか土地を譲らなかったためである。このように、JR東日本と東海はとにかく折り合いが悪く、そのことが寒川町の新幹線新駅誘致にも影を落としている。
こうなると、国鉄の民営化はともかく分割は良かったのかという問題にもなるが(寝台特急の相次ぐ廃止も、要は、運行範囲がJR各社にまたがり調整が面倒だからに他ならない)、それ以外にも、倉見地区のまちづくりに必要な数百億円とも言われる費用負担をめぐる、町と県との本格的な調整もこれからだ。
寒川町の新幹線新駅構想は、複数の「卵」と「鶏」という連立方程式を解かないといけない難題であり、式が解けないまま18年の時が経過している。町と地元地権者、町と県、JR東日本と東海のにらみ合いは当分続きそうだ。